百十九生目 無理
恐ろしい速さで処理すれば当然相手との差が生まれる。
それは一種の余裕さとなる。
それは先々の展開について考えるより早く行えるということで。
「ははは!! そろそろ熱源の場だ!!」
「はああぁ……!」
「無駄だ! 大穴を創ろうと、そびえる山を創ろうと、勢いに乗ったこの白く塗り替える力で、全て白銀に帰すのみ!」
宣言どおり亀裂で大穴に落ちたはずの雪崩は穴を埋めて溢れ出し。
山にせき止められたはずの雪崩は大地を削るようにねじこみ溢れ超えていく。
それはもはや常識的な手で防げる段階を超えた……そういった概念になっていた。
それはあらゆる生物の持つ根源的な畏れが生み出した実態を超えた化物。
それはなにもかもを呑み込むまで満足しないだろう。
しかし……
「だから、絶対に! させないって!!」
「さあ、呑まれろおぉぉ!! おおおおぉぉぉぉぉ……!? な、なんだ!?」
させるわけない。
雪崩の向かう先の首都。
私が必死に時間を稼いでやったそれ。
今までのは地面を多少盛り上げて山にする程度だ。
だがこの戦いは概念。
雪崩は坂を下り崖を落ちぶつかり壊していく。
だから変えた。
「い……いつの間に……!」
「ほとんど……最初の次くらいのやり取りから……このプランでしか止める方法は、思い浮かばなかったから……!」
私単独では無理だった。
私を見てくれる者。
私達の無事を祈るもの。
助かりたいと願い慌てる首都の者たち。
その想いのお陰で神の力が具現化出来た。
「大地の、か、角度が!?」
「いつから平原を下っていたと思ったかな? まあ私が散々妨害したから……それを疑問に思うことは出来なかったと思うけれど」
曲がる。
大地が曲がる。
全てが曲がる。
キミは天地がひっくり返ったのを味わったことはあるだろうか。
私は今味わっている。
全てだ。アイツのエリアである氷雪地帯すべての地殻。
それを傾けるという奇跡。
この奇跡は祈りにより行われた。
今首都側が山で雪崩てきたほうが谷に傾いている。
角度的に。
「あ、ありえない! そんな力、翠竜でなければ……! いや、まさかこの力の気配……5大竜の!?」
「私だけじゃない。この地全ての力を! くらえぇぇぇ!!」
「こんな! 神が、そんなフリーでいていいはずが……!!」
残念ながら今私はここにいる。
それが答えだ。
雪崩はもはや余波を残して止まっているようなものだが……
「雪崩を……止める!」
そしてどんどん旧王都方面へ戻りだす雪崩。
しかし目的はこれの排除。
ならば徹底的に。
大地が奇妙にめくれ上がっていく。
それは今までの軌跡が連なるかのように。
守るためのものを残して繋がっていく。
ソレはあまりに奇妙な光景だろう。
大地が雪崩をかき集め包もうとしているのだから!
「莫迦な!? そんな力、扱えるはずがぁぁ!!」
「まあ、私だけは無理だったし、私の出力だけでは到底届かなかったけれども……足りるように工夫したんだよ」
みんなの力があったのは前提。
次善策として最初に止められなかったらこうするとずっと仕込んでいた。
さらにここはエネルギーの集う場所だから首都や旧王都がありエネルギー開発が行われスターがあったのであって。
龍脈とそこから噴き出る龍穴もあって。
私の体の反動を無視すれば利用できるパワーはたくさんあった。
相当消耗したけれど……勝てるなら良し!
「嫌だ、出せ、我々を止めるな! 雪崩のちからが失われ……!?」
その日。
この広大な雪原に大きな球体が生まれた。
それは地面で包んだ雪。
後の世で神話と観光名所になるのを私はまだしらない……
「はぁ、はぁ……」
これは私が直接は知らない物語の一部。
「わ、我々が全滅するかと思った……!」
雪崩の神は力の大半を私達の概念で握りつぶされ失ったとはいえ神は神。
雪山を転がる雪玉としてなんとか生き延びていた。
正確には死に戻りだが。
結局は仮初めの終わり。
出る杭が打たれたところで杭はそこに残り続ける。
杭の起こす現象も世界には普遍的でなおかつ必要なのだから。
その神がよくいる大神ながらも5大竜のような偉大さも誇れず。
戦神のように絶対的な存在感を誇ることもできず。
微妙な立ち位置と一切ほかを顧みずいつか世界を自分のものに……と考えてウロウロと生き続けている。
そんなどこにでもいるような典型的な小物の大神だった。
世という巨大すぎるもののバランスを破壊しようとしなければたとえ大陸の1割程度を氷の世界に閉ざしていようと命が散ったり苦しんだりするものが出ても他の神がどうこういうことなどない。
神の世に法はない。
だが大局的に世のバランスを崩しにかかれば……それは別だ。
神としての役割を放棄しているということそのものだからだ。