百十一A生目 急行
なんとか敵を一層した。
しかもみんなを再度呼んで敵の増援に備える。
「ここは任せてください!」
「ん」
「護衛待機」
「うはー、相変わらずでかいな……頼もしいねえ」
「おーい! また空が!」
その掛け声とともにまた色々と跳んできているのが見えた。
さっきより強いかもしれない。
「私は……」
「行ってこい、冒険者」
「ウッドロフさん」
悩んだところでウッドロフさんがこちらに声をかける。
頷いて向こう側へ目を向ける。
敵が溢れ跳んでくる先へ……
おそらくとても大変な試合を強いられているクライブのほうへ。
「行ってきます」
「死ぬなよ……おまえたちが死んだら、アタチたちも死ぬしかなくなる」
「もちろん、死んでも生きて帰ってきます!」
「はは、そりゃ頼もしい」
割りと言葉通りの意味でね!
私はウッドロフのニヒルな笑みにつられるように笑みを返した。
そして一気に駆け抜ける。
もはや悠長なことをしている場合でもないだろう。
超巨大魔導機関がひっぱれればよかったんだけれどやはり固定されているっぽい。
固定されていると魔法では効果が打ち消されたりするからなあ。
できなかったものはしかたないが……
気になるのはやはりクライブだ。
離れている場所の行いだからあまりよくわからないが善戦しているとは言えないだろう。
それにクライブは自身で言っていた。
だれと組んでもやれるようにしていると。
つまり本来は私達でやってよかったもののはず。
それなのにああも意固地になったのはきっと私が負けの記憶を掘り起こしてしまったから。
強くならなければという渇望が変な方向に作用してしまったのかも。
ならば私が早くいかねば。
私も私で好きにさせてもらおう!
「────っ」
「────!」
何かの話す声が遠くから聞こえてくる。
壁とかが多くて音が伝わってこない。
砦造りだから当然壁1つとっても厚い。
そして私もちんたら聞いている時間はない。
素早く音の方へと突貫する。
幸い内部に行くほど補強されておらず通れそうな場所をかけていぬ。
ワープって案外タメが大きく私は足が早いので道があるなら駆けたほうが早かったり。
しかしたどり着くまでの数分は戦闘における死線をわける数分だ。
これがとんでもない化け物同士や大量人数の戦闘なら別だが……
残念ながら今回はクライブが化け物でもなければ大量にいるわけでもない。
相手だけが手札を揃えている状態だった。
その場合死合は短くなっていく。
「この先……!」
"見透す眼"で肝心のポイントをしっかり見られた。
ここから大きく迂回しなければ本来はたどり着けないが…、
こういうときこそ"ミニワープ"。
空魔法による壁抜けをして現地に降り立つ。
そこではクライブが巨大な影に不利な鍔迫り合いを強いられていた。
その影は不自然な場所から伸びていた。
天井から生えている。
巨大な何重にも重なった刃のような……いやもしかして工具?
思えばロボットアームと工具の何かに見えなくもない。
それがクライブを襲っている。
とりあえず土魔法で横から頑丈な岩で吹き飛ばす。
力のベクトルが定まっていた相手はこういうときが脆い。
一斉に6つくらいぶん投げただけで吹き飛んでいった。
天井から生えているせいで変なふうに慣性が働き天井へと叩きつけられている。
私はクライブのほうをちらりと見る。
すると思ったよりも生命力が削られていた。
近くへ駆け寄るついでに回復する。
「誰だ!? 魔物!? いやその気配は!?」
「あ、そうだった」
そして私は急ぐため当然4足歩行に戻っていた。
まああまり深く考えてなかったのは事実だ。
ただ物事には優先順位があったというだけで。
目の前でいつもの2足歩行に戻して服を瞬時に整えると珍しい表情が見られた。
クライブが驚いた顔をするとなかなか面白い。
「な、お前!? 魔物だったのか!?」
「まあね、冒険者でもあるのは確かだけど。まあ詳しい話は後、今は……」
「そうか……お前も何かを選んで捨てて……」
「クライブ?」
「あ、ああ。俺ひとりでもここはやれる。なぜ来た?」
「監督の指示。あっちは大丈夫だからここを先にやってほしいと。それと……あれだけの戦力を個人でやるのは厳しいよね。チームを組んだほうが、ずっといい」
「フン、お節介なことだ……」
「だって、その力は誰とでも合わせられるようにしてあるんじょう? ただひとりで誰かに勝つための剣だけじゃあないはずだ」
「………そうか」
強いタメのあとのひとこと。
それは万巻の思いがあるかのような。
1つとは言えない感情のにおいがうずまきやがて落ち着いていていった。
「やるぞ」