百九A生目 同調
「被害を抑えなきゃ、倒す意味がない!」
「それはそっちで勝手にやれ。俺は興味がない」
「そ、そんなの、よくはない!」
「善いにも悪いにも興味はない。俺の実力をつけるには、全てを手に入れる必要はないというだけだ。むしろ……1つだけを選び続ける必要がある」
クライブの声はどこか真に迫っていた。
彼はいつもよりもなんだか焦っているようにもみえる。
いや……むしろこれがクライブの根の部分なのか。
「むしろお前も話を聞いたぞ。わざわざ全部虫たちを保護したんだってな」
その話は事前にウッドロフさんたちにも話してある。
討伐と撃退どっちでもいいとのことだったので。
「もちろん、そりゃあわざわざ殺す必要なんてないから」
「ふん、お優しいことだ。そのような無駄な労力を払って何になる? 甘さは命取りになる職だと、もはや痛感しているだろう?」
「もちろん。だからこそ、私は強さだけが絶対的な関係はやめたい。その先に待つのは、極端な生存戦争だけだから。自分が死にたくないのに、相手をころしにいくのは、また話が違うからさ」
「死にたくなければ、死なない努力をすればいい。それは各々の生き方、自由だ。お前のそれは、過保護だな……」
話は平行線だった。
結局そのあとも建設的なことは何もなくわかれる。
クライブはその傷を癒やしに裏手へ行った。
私は守れるものを守るだけだ。
そしてクライブがそれを斬り捨てるのならば私は……
作戦2日目。
超巨大魔導機関がいきなり大暴れして来ないかが不安になったがなんの問題もなく翌日を迎えられた。
どうやらひと当てが効いたらしい。
そうして私達は他の地区を追加で確保しつつクライブが再度超巨大魔導機関に向かう。
戦力の話は気になるが……向こうと会話することもなく。
気になったら見に行けば良いんだけれど……それもなあ。
「ローズ、まだ行かないのか?」
「うーん……でもなあ、邪魔しに行っちゃうし」
「邪魔ってこたあねえと思うがな……それに、ああいう手合いは実力以上に示せるもんはねえだろ」
ジャグナーには一応昨日のやりとりは伝えてある。
作戦上の支障がどこで出るかわからないからだ。
「実力ねえ……なんというか、それだけだと単に相手の思想に同調したみたいで」
「それが嫌でウロウロしてたのか……」
ジャグナーに飽きられるような目を向けられたが仕方ないじゃないか。
ああいうタイプとの共闘は難しい。
言葉を交わす前のほうがやりやすかったことなど生きていればいくらでもある。
もちろんクライブの言う事そのものは最もだしある意味においてずっと世界で肯定されつづけた巨大な仕組みだ。
ただソレだけが世界じゃない……
社会というものの仕組みはそれらを変えて生きようとする様々な生物たちの道のりだ。
高尚な理想論ではなく徹底的なリアリズムにおいて打ち出された考えでもある。
弱者を保護するのはそのほうが強者の信用が稼げるから。
そして中間層は転ぶ危機を不安視せずに歩めるから歩幅が大きくなる。
そして巨大化していった。
その社会を1番強く担うニンゲンは……
ああやっていつからかひとりで生きている気分になってしまうのは仕方ないのかもしれないが。
それはそれとしてクライブの振り回す力は美しいのに本人が気に入らない!
ああいう技を身に着け受け継ぐの自体がまさしく社会性であり弱者の牙なのに!
まあそんな話はいいや。ひととおり怒ったらまあどっちでも今は良いって気分になる。
結局程度の問題だからね。
問題は向こうがそう思ってくれないことだが。
私はとりあえず1つの地区を自力で組み完成を終える。
結局仮組みして頑丈な板貼り付けるだけなので楽だった。
E地区みたいな広大なところは本職に任せないと無理。
こうなると手持ちぶたさだが……ん?
なんだこの気配。
「ジャグナー!」
「なんかきてるか? なんかきてるな!」
ジャグナーも遅れて気づく。
空を見上げると中央から吹き出る闇を溶かしたような色とともにあるナニカ。
そのナニカは明確な敵意を持って私達の前まで降ってきた。
黒いオーラを振り切るその存在は3メートル届くほどの巨体。
2足の姿ながらまるでニンゲンとは違う。
木材で組み立てられたゴーレム……だろうか。
シルエットが不安になるほど細い部分と守るために平たく厚い部分が入り交じる。
顔の変わりに単眼のレンズがありこちらをギロリと覗いていた。
「な、なんだ!? とりあえず、敵だな!」
「ガガガ、排除!」
「うわ、他にもたくさん!」
空から振るのは10ほどの敵たち。
理由は分からないが襲われたのは間違いない。
超巨大魔導機関がこっちに攻めてきたというのだ。