百五A生目 新技
虫の巣たちは結局虫たちが眠れば静かなものだ。
彼らは……なんなんだろう。
蜂のような魔物ということかな。
いや正確にはそのアギトのちからがえげつない見た目をしている。
アブとかそのあたりもあるか。
ただこの集団で巣にこもるのはハチっぽい。
詳細は不明だがアノニマルースと同盟を組んでいる大蜘蛛の彼ならなんとでもなるむねを話してもらっている。
彼はどんな虫魔物とすら交流や……または支配が出来るそうだ。
支配とかくと悪者そうだが虫の世界に置いては話が別。
彼らは生きる様に刻まれた活動をメインにして思考が二の次の生き方が多いらしい。
大蜘蛛さんは突然変異で思考が深く先に出来る。
魔物らしく自発的に動くという『支配』をしなくてはいけないらしい。
でなかれば野の獣より少し賢くない程度でしか動くことはないと。
支配とは時として解放を意味するらしい。
話はつけてあるから私がやるのはたっぷり"無敵"を浴びせて送るだけ。
さて寝ているかな?
「ヂヂ……ヂ」
「まだやっぱ耐えているかあ」
眠りという状態異常はなんというか真の意味でぐっすり眠ることは少ない。
まあ連続でぶつけてやるなり不意をつくなりで工夫次第ではできる。
けれど今回は少なくとも別なわけで。
眠りの状態は抵抗できない酩酊感。
ふらつきまぶたが閉じかけ思考が定まらない。
つまるところ徹夜したニンゲンの限界状態である。
一時的意識希薄なため気合い入れて吹き飛ばされれば復活してしまう。
まあ私が魔法を展開し続ける限り起きようと動き出したところを再度眠りにいざなうのだけれど。
この魔法対策がないとどんな防衛の都市でも一瞬で落とせそうな気がする……
まあ実際のところはそんなうまくいくことはなくレジストされまくるだろう。
だがここの虫たちにはレジストされていない。
それで十分。
効きがあまい虫もいるが個体差で暴れてもまた寝始める。
そして銀の結界を打ち破るには力不足。
私はガンガン"無敵"を放ちつつ肝心の巣を剥がす作業に入った。
切り離したら壊れてしまう。
地魔法とか土魔法とか使って地面を調査しつつ慎重に剥がす。
結界内に入っての作業となるから襲ってくるがこんな緩慢な相手ならば問題ナシ。
さてジャグナーたちは……と。
「ぬおおおおっ!! 食い止めろ!!」
顔のない敵の苛烈な斬り刻む攻めを前に岩鎧で押して食い止めるその姿。
太い腕や足の筋肉が張り詰め避けださんとするようなほどに膨らむ。
普通の……いわゆるクマというのは恵まれて育まれた体格を振るうもの。
ジャグナーの筋骨は間違いなくそれを超えて鍛え上げぬかれた代物だった。
「オラァッ! ったく、進化するならもう少し楽なんだがな」
そして受けた刃をそのまま押し返して地面に叩き伏せる。
怪力ゆえのパワーファイトであり……
なによりそれで相手が地面に埋まるというのが凄まじい。
受けて入るものの傷のうちに入るものはほとんどないまま何体もしのいでいる。
そして少し離れたところでドラーグがそこにいた。
隣にはコロロもいて長い槍のような武器……竜の上で振るうための銛を構えている。
「「やああぁー!!」」
ふたりの裂帛とともに顔のない敵たちを貫き吹き飛ばしていく。
顔のない敵たちとのサイズ差的にドラーグと他はほとんど大人と子どもくらい差がある。
そしてコロロは小柄でも自分の思い通りに伸び縮みするその武器は自分の第三の腕……
まるで尾のように伸縮し薙ぎ払っていた。
ドラーグではやりづらい小回りしてくる相手を薙ぎ払い。
逆にコロロが狙われるようならドラーグはそちらをまとめて弾き飛ばす。
そのコンビネーションは長い時を得て完成されその上で成長をしていこうとしている。
ドラーグは神ではないのに自力で神の力を操れる。
危なくないようにやたらめったら振るわないよう抑えてこの活躍だ。
「パパ、ブレスは?」
「いけるけれど、乱戦すぎるからまとめて追い込みたいかな」
「ん、わかる」
「おい、そっちにまとめてぶんなげるぞ! おらっ」
そして巨体に負けていない怪力によりジャグナーがまとめて敵を吹き飛ばしていく。
相手も機敏に魔法だの爪だの牙だの角だの刃だの蹴りだの銃だのうちこんでるのにまるで気にしていない。
せめていうなら味方たちは誰も足を止めていないことか。
足を止めないことで囲まれず常に攻めを維持している。
怒涛に攻め滅ぼしているようでその実数を散らしつつ浮かしてまとめあげ一斉に追い払って休みをとる。
防御面での立ち回りがとても繊細だった。
そしてまあ……あとノーツだが。
「1万7千3百3の仮想テスト終了。実地テスト、1回目」
その毒銃を美しく月光に輝かせていた。