百四A生目 範囲
E地区の戦いは大規模な魔法の展開から開始した。
私は銃ビーストセージを杖として扱い大規模に放つ魔法用に多重の魔法陣で味方を守る。
襲いかかるは相手の虫の巣たち。
虫の巣もすぐに反応して外に出始めたがこっちのほうが早い!
光が形となり相手のいる場所を覆い尽くす。
「銀の……結界!」
"銀の神盾"を自分なりに解釈し扱いやすく変形した神の力なしの劣化版。
しかし展開も早く同時に効率がいいので広く……指定要素を多くできる。
それは広がる細かな網のように虫の巣たち全域を空から覆う。
顔をのぞかせ翅をはばたかせだした50センチほどの虫たち100以上が飛び立つ前に一気に網を縮める。
すると結界がギュッと縮まり虫の巣に絡まるように絞らられる。
「「ヂヂヂヂヂ!!」」
これはいわゆる「ぐわあああ」の虫音である。
翅と甲殻の音が重なり合い結果的に恐怖心が沸き立つ騒音となる。
当然そんなことをしていたら境界穴が大きく開く。
中から続々と見たこともないような怪物が溢れ出す。
それはどこかニンゲンのような。
どこか鳥のような。
どこか獣のような。
どこか虫じみた。
どこか竜みたいな。
もはやなんでもない球体なのか。
各々タイプは違うがまるで本来の魔物たちみたいな姿をした顔のないなにかがそこにいた。
いやこわいね……スライムやエレメントの顔がないだけでもインパクトがだいぶ違う。
さらにものによっては氷だの炎だのエレキだの纏っていて不穏。
一目見たただけで超常なるモノであり交わざらるものだとわかるオーラを発している。
もちろん当然のようにこちらへ牙を……この場合まるで武装のように鋭く大きく口もないのに身体から飛び出したその牙や爪たちを……むき出しにして駆け出していた。
[サウザンドナイト エリアに闇夜を呼び出す。闇夜は指定した味方に夜の効果を与えると同時に、相手に効果範囲内眠りの効果を与え続ける]
夜を喚び出す!
辺り一帯が昏くなりまるで昼夜が逆転したかのように淡い夜闇が訪れる。
雪の白が空の黒によく映えていた。
「な、なんなんだこれは!?」
「落ち着けお前ら! これが話にあった魔法だろ!」
「しかしリリーちゃっ、監督! これ、こんなことが本当に魔法1つで!? 魔法っていやあ、チャチな火の玉飛ばすくらいじゃあ……!」
「わかってる! けど……これが現実だろ、なら聞いていた通り、アタチたちは動く。やることはそう……ほんのわずかの待機!」
リリーことウッドロフ現場監督の顔から汗がひとすじながれる。
ただ私はそっちの声に気がつきたまたま視界に入っただけでそれどころじゃない。
虫たちがバタバタと倒れるように眠る中残念ながら境界穴からの敵は動きが緩慢になる程度。
今度はこっちの仕掛けだ。
闇魔法"カーテンベール"。
オーロラのような幻想的な輝きが一瞬夜闇に映えて虫たちを包み込み……
そしてニンゲンたちは特にだが一気に視界がひらける。
夜の中でもまるで明るく端まで見渡せるように。
「私達の姿は夜闇が隠してくれるようになった」
私達の背後の空で……
美しき満月が輝いている。
そう視えた。
「虫たちは次々眠っている」
「よし」
「見えるぞ!」
「「進め!!」」
「「うおおおおおぉぉぉ!!」」
ジャグナーとウッドロフの叫びが重なる。
そして戦場には鬨の声が溢れる。
私達。現場作業の方。冒険者たち。
少なくない戦力をあらゆる地区に向けて作業を開始した。
それにはこの魔法効果が関係している。
サウザンドナイトの効果はエリアに向けて置かれる。
簡単に言えば土地を対象にとった魔法だ。
巨大な結界みたいなもので全体ごと変化させている。
さすがにこの魔法で世の昼夜を逆転させるわけにはいかないのでエリア限定だ。
それでこのエリアが問題で範囲はほぼ旧王都を包み込むのだ。
狭めることはできるものの……そこまでそんなにかわらない。
これは『空が夜である』と魔法で付与する関係上縦にも横にも広くさせられるのだ。
さすが地魔法のような力を持つだけある。
あっちも辺り一帯地震を起こすからねえ。
いくら旧王都が現王都よりこじんまりした立地でもこの魔法の効果範囲はなかなかにえげつない。
というかもっと広げられるし。
そして虫たちは起きようとしてまた寝るというループを繰り返している。
私がやっといてなんだけれどエグいなこの魔法。
そして闇魔法内で魔法コンボを成立できる点も評価が高い。
夜闇から繋げられるシナジーがとても多いんだ。
便利なのでほかも見習って欲しい。
さて私はエリア内の虫たちを眠っているか見守りつつあの巣をどかす作業をしなくては。