百三A 生目 総戦
リリー・ウッドロフさんに任されたE地区は実際見ただけでわかった。
「これは……防衛しづらいなあ……」
そこは開けた空間。
昔は貴族か何か富豪の家だったのだろうか?
それらしい廃墟跡地は崩壊して残っているが大事なのは広大な庭面積たち。
いやあ……なんの隠れ場所もない。
まさしく平地。
高級な草花って手入れ前提で生きていることも多く見事全滅。
おいしく草食されたり枯れて分解されたり……
まあとにかくここにはない。
まーじーで見晴らしが良い。
それは不意打ちを受けにくいということでもあるが防衛側がしたくないことでもある。
確かに陣地を築いて防御力高めたくなる。
「そのためには、アレが邪魔……」
そして私の視界の先。
端から端まで見渡すと壁が随分離れた位置に見えるのみ……
外壁までがきれいに壊れちゃってる区画だ。
果たして歴史の中で何があったか気になるが解き明かすのは今ではない。
現実問題に対応しよう。
広場の広さは数キロ平方メートルくらいある長方形。
でっかい区切られた平野。
そしてコッチの陣地からみて反対側の壁あたりにはたくさん巣食う虫の巣みたいな糸の塊じみたものがたくさん見える。
さらによく見ると空間に亀裂が。
あれこそが境界穴。
今は不活性だが私が近づくなり虫たちが活発化するだろうから厄介。
簡単にかんがえれば相手が無限に湧いてくるスポット2つだ。
幸いなのはおそらく三つ巴になることくらいである。
境界穴の出てくる相手は正気がないといって良い。
正確には意識がない。
何かを概念核として肉づいた破壊の存在……言うなれば幽霊だ。
そこには命がなく魂はない。
現代ファンタジーで頭を撃ち抜かれる役のゾンビ並みに斃してもなんら問題なかったりする。
むしろちゃんとトドメ刺さないとまずかったりする。
完全に壊れるまで止まらない。
それはおぞましい軍隊のようなものだ。
まあ近くの生命体に襲いかかるようなたぐいなので逆に誰もいなければぼうっと立っていることもあるらしいが……
逆に言えばそこからどう勝手に動くかがわからない相手だ。
目的なんてない。
そんな相手を放置する手はなし。
そして虫の方はどうなんだろうなぁ……
"観察"すると種類はわかるが実際戦ってみるまで厄介さはわからない。
本来こんなところにこもる魔物虫なんて敵ではないはずだが……数が数だ。
それに私としては虫魔物をむやみに殺したくはない。
彼らの巣にこちらがお伺いたてる形なので。
ただ話を聞いてくれるから怪しいんだよなあ……
大量にいると交渉は不可能に近い。
ハチみたいなタイプでない限り虫のリーダーとかいないし。
社会性が生態的になかったりするのでとにかく期待できない。
つまるところまとめて沈静化させる方法を狙う。
そして沈静化させたあとに境界穴の敵を倒し……
中に入ってコアをなぐって枯渇させ不活性化させる。
やることは決まった。
じゃあ後はみんなを呼ぼう。
ワープしてきたの以下。
巨体ゴーレムのノーツ。
巨体ドラゴンのドラーグ。
ドラーグとともにあるニンゲンのコロロ。
でかい!!
ノーツもおおきいしドラーグもだいぶ縮んでいるはずがさらにでかい。
やはりデカさはインパクト大だ。
そして……
「新装備装着。装備解析。いつでも使用可能」
ノーツに溶解毒の盾を手渡した。
ノーツの全身を覆うにはあまりに頼りない盾。
しかしノーツは瞬時に理解し盾を操る。
盾を1つの呼び出した銃らしきものに組み込む。
巨大なそれは盾をあっさり飲み込んだ。
銃口を何もない方に向けるとトリガーをひく。
すると緑色のような炎が吐かれだした。
これは……
「毒を加熱して燃やして噴射した、火炎放射毒? なんだかすごいね……」
「摘発性と瞬間温度の高さに注目。結果、安全な毒放射機として使用」
詳しい理屈はわからないが凄まじいな……
火力がまさしく高そうで今回の戦いに有用だろう。
ちょっとこれで虫を払われたら困るけれど!
「僕らは、ローズオーラ様が虫を対処なさっている間に湧いてくる境界穴の敵を抑えていればいいんですね?」
「うん、頼んだ。たぶん油断するとすぐに氾濫するから、数を押し切る力がいる」
「ん……パパと一緒なら、平気」
「もちろん、クワァコロロと一緒なら!」
アツアツのカップル……ではないな親子関係……とも言えず騎乗関係……はまた違う。
ふしぎなふたりぐみだ。
これに今指揮をとっているジャグナー含めてのフルメンツとなる。
実際はこの戦いに備わる者たちは100名以上。
戦争でないのに大規模な戦いに身を投じよう。
始まりは静かに……