百二A生目 監督
疑惑の現場監督に出会った。
というかなんで子供がここにいるんだ!?
そうニンゲンなら思うだろう。
しかし私はにおいや音でわかる。
彼女は……大人だ。
少なくとも20年は生きている。
私はその女性に近づきこのくにでの敬礼をする。
「ウッドロフさんですね、ローズオーラと言います。冒険者ギルドから来ました」
私は依頼書を出してウッドロフに差し出す。
ウッドロフはそれを驚いたような目で見ていた。
「お前……アタチを見てなんとも思わないのか?」
「え、現場監督さんですよね?」
「よくこの風貌でわかったな、ということだよ」
「小柄な女性とは伺っていたので。ああと冒険者していれば……出会いも様々なので、割とわかるものなんですよ」
「へぇ、アンタ以外の冒険者に気づかれたことはなかったんだがな……」
それは多分冒険者が誰相手でもあんま態度変わらないせいもあるよなあとは。
そして私はこういう相手の対処はすでに師匠の師匠ことウロスさんで心得ている。
ウロスさんは自ら転生をして子供からやり直しているおばあさんでだからといって目線を合わせるのは嫌う。
あれは耳が遠い年よりかたかい目にビビる子どもにやるもので大人同士は相手の顔を見えればいいと。
だから私がやるのは気持ちいつもより後ろで歩みを止めるのみ。
すると相手は首を折らずにこちらを見える。
実際周囲も似たようなことをしているんだからヒントはあるのだ。
私みたいににおいに頼らずとも観察眼でわかることだろう。
「ふん……まあいい、アタチが小さいからとナメるやつが殆どでな……まあ、ナメたやつは全員しばいたんだけど」
「しばいたんですか」
「そこはどうでもいい。肝心なのは、アンタなら多少は信頼できそうだということ。実績も積んでいるし、評価値も高そうだ。よし、それならお仲間と組んでE地区の掃討、それと確保にむかってくれ」
地図をぺらりと近くの机にひく。
当然のように踏み台の上に乗ったし当然のようにその踏み台を周囲が持ってきた。
なんというか現場での愛されを感じる。
「E地区はここだ。エリアは広いが、どうしても重要な壁面のために、ここを確保して強化したい」
「ああ〜……もしかしてこのエリア、大暴れしている相手の場所と隣接しているんですか」
「そうだ。しかもここを破られたら最悪雪崩が起きて山の斜面を曲がった挙げ句都市にぶつかる」
わあ致命傷。
「絶対止めないとですね。でも、この赤塗りは一体?」
「ああ、当然ただの空いた空間ならアタチたちがなんとかしている。しかし実際はここにたくさんの巣と境界穴があるんだよな……」
「巣? それに境界穴ってまさか……」
「巣は、ユキノコたちが大量に巣食ってる。近づいたら取り囲まれて数で押されて死ぬな。境界穴は、現実の世界に開いた異界の扉……言葉はいいが、命でないものが無限に湧いてくる。なんなんだろうなありゃ? 一応、世界にはあるにはあるらしいが……」
「有るにはあるけれど、間違いなく珍しいですね」
どこか別の空間から意志のみある意思疎通不可能な軍隊が送られてくる亀裂穴。
それこそが境界穴とか時空亀裂とかよばれるものだ。
ここは境界穴。
地上に現れることは数少ない。
まあここは地上の中でも遺跡だからなくはないけれど……
やはり超巨大魔導機関のせいか。
膨大なエネルギーを生み出すものの近くではひずみが生まれやすい。
まあ普通はひずみが生まれる程度だが……
そこを悪意前提で突けばあっというまに悪いことが起きる。
今回はそれが引き起こされた形かな……
「あの穴を塞ぐのって、やろうとすれば出来るのか?」
「できますよ、中に入って中のエネルギーを枯渇させて出れば不活性状態になりますから」
「なら、詳しいことはまかせた。にしてもあんな得体のしれないものに入るのか……大変そうだな……」
「そこはプロですから」
その小さい身体で私のことを力強い目で見る。
身体に比較すると子どものような身体は瞳がとても大きく大人ですらすごむ圧がある。
私は安心させるように力強くうなずいた。
「……なら、任せた」
「もちろん!」
そこでひょっこり遠くからひとりやってきて。
「あ、リリーちゃんさん! この荷物向こうで良いか認可を……」
「こらー! 客人の前で馴れ馴れしくするなと何度言えばわかる!!」
怒って素早く台を降りスネを蹴り飛ばしていった。
……名字じゃない方の名前はリリーなのね、ウッドロフさん。
さて任されたはいいがまずは偵察しないと。
私ひとりでは不安だ。
やはり物量は欲しい。
いやまあ『私ひとりでも大立ち回りすればなんとかなる』というのはある。
しかし『私ひとりで隅々まで見て被害を出さず』では私ひとりは無理。