百一A生目 女子
ランクXとの試合は詳しく話してくれることはなく旧王都にたどり着いた。
どうやらあまり話したい思い出ではないらしい。
旧王都では既に現場指揮が張り切ってニンゲンたちを動かしていた。
「いいか! 俺が来たからには個々は突破させない、そして死者も出さん! 必ず守り切るぞ!」
「「お、おおー?」」
高台から声を張り上げているのはジャグナー。
クマの魔物である彼は見た目のインパクトがすごい。
話は聞いていたけれどいざこんな『ザ魔物』みたいな相手は困惑しているのだろう。
さらには冒険者の魔物たちもたくさんうろうろしている。
明らかに不審がられているが魔物たちはいつも通りなのでしらっとした態度だ。
「聞いてはいたが……なんなんだこれは……」
そしてここにも驚きが止まらない者がひとり。
クライブは魔物たちを見て手が剣に伸びたまま固まっている。
どう動けばいいかなあ。
私が魔物なのはなんとなくまだ隠している。
まあ冒険者相手だから平気だとは思うが。
クライブも少ししてため息を吐いて剣から手を離した。
「警戒しても仕方なさそうだな……」
「そそ、見た目私みたいなもんだから」
「だいぶ遠い気がするんだが?」
それにしても本当にニンゲンたちも魔物みたいに毛皮持ちが多い。
私も普通に紛れられるだろう。
ニオイがニンゲンなのでわかるけれど。
「ほら、なんかみんなおんなじようなもんだし」
「お前の目は節穴か?」
ニンゲンも魔物なんだけどなあ。
そんなこはわざわざ言わないけれど。
信用もされないし。
さて軽口を叩き合いつつ私達はジャグナーの元へ。
ジャグナーも私のことはわかっている。
わざわざ下手に掘り返すようなことは言わないはずだ。
「おう、話には聞いている。上位冒険者だな?」
「ああ。俺は討伐に向く、こいつはここで支える」
「だろうな。あんな大型の相手、暴れたらどれだけの住み着いている奴等が溢れ出すかわかったんもんじゃねえからな……素早い討伐より、粘り強い戦いのほうが求められる。戦いは無理するなよ、それで解決できるほど甘い状況じゃない」
「……魔物なのに、やたら話が出来るんだな。なんとも調子が狂う」
「ま、俺たちはみんな話せるからな! 頼ってくれていいぜ!」
ジャグナーは腕輪の受信機を指す。
あれがある限り言葉は自動的に翻訳される。
便利機能だ。
何度もアップグレードを繰り返して今ではとてもスムーズだ。
「……ああ、わかった、利用させてもらう」
さすが冒険者だ。
割り切りが速い。
驚きつつもうなずきどこかへとあるいていく。
さぁて私も準備するかな?
「んで、ローズ? お前から見てアイツはどうだ?」
「ああ、うーん……少しだけだけれど、割となんでも出来るしシンプルな膂力もあるよ」
「ほう、それは期待だな」
私とジャグナーの会話は聞かれぬように小声で別言語で話を回した。
クライブは気づくことはなく奥へ行った。
その後姿を目で追いつつさあやろうか。
冒険者はすぐに受け入れるけれど現場のニンゲンたちは別だ。
今だにオドオドした空気が漂っている。
「だ、大丈夫かな……魔物だなんて……」
「竜馬みたいなもんだと思えば……」
「竜馬は喋らねえよ……」
「おいどうすりゃいいんだここは! わかんないなら適当に積んどくぞ!」
「あー、久々に派手な仕事だなあ、ニンゲンたちはもうちょいほぐれないか?」
「まあ、いつもどおりなら始まっちまったらなれるぜ」
こんな調子である。
まあ大丈夫なのだろうというのはわかっているけれどヒヤヒヤする。
こういうスレスレの場ですれ違ってやれるのかと。
私は早速ジャグナーではなくニンゲン側の現場監督の元へと向かう。
こっちで手続きをしないと私が携われない。
さてこの場は旧王都の外縁部といえばいいのか。
幸い無事な城壁が多数残されているここは城下町の外側にたくさんの人員が張り付いて防御力を高めている。
足組を組んでグレードアップに勤しんでいた。
そして見て思うのだが……
よくもまあ当時はこれを放棄したなあと立派な街の跡に思う。
歴史があるのはわかるが王都1つの放棄はやはりただごとではない。
やはり昔ここで何かがあって王都を放棄したとみるのが正しいんだろうなあ。
ただしそれは国家の秘密として教えてくれなかっただけで。
ということは聞きまわるのはまあNGだろう。教えてくれないし。
そういうのが結構大事なことに繋がるからやめてほしいなあとは思うが極秘事項というのも理解できる。
まあとにかく話を聞きに行こう。
現場監督はすぐに見つかった。
小柄な女性というデータだけで見つかるのかと悩んだけれど……
「ああ、確かに……」
見つけて第一声がこれ。
小柄……身長100センチ前後の。
女性……女の子なのだから。