九十八A生目 機関
私が受けた複数の依頼のうち1つとクライブが受けた1つの討伐依頼は実質同じようなものだ。
私が受けた依頼の1つが特定地域に拠点を作成し防衛できるための足づくり。
そしてクライブが受けたのはそこに巣食うとあるナニカの討伐だった。
そう魔物かどうかすらわからないのだ。
悪魔憑きのモノではないか……とは言われている。
姿も確認できていて何度も襲われているのだから。
私とクライブは防衛省の中に通され客室らしき場所に来る。
中の調度品なんかはあんまり王城と方向性は変わらず緑色なんだなと思う。
渋いカラーリングだが大事にしている色なんだろう。
それでも近代的になるだけでだいぶ雰囲気は違うものだ。
すぐに担当部署の方が来てくれた。
彼は丸眼鏡が特徴的な細身のいかにも中の仕事していますって方のようだ。
挨拶を交わしてと。
「冒険者の方々に長い前置きもいらないでしょう。こちらが、討伐してほしい相手の詳細なデータとなります」
「なんだ、データも取れているのか。てっきり、ほとんど被害しかわからないのかと思っていたが?」
「防衛省から外に出せないデータも何分含まれていますので……」
「ふん……なるほどな」
「何か、国防まわりってことですか」
相手は曖昧な笑みを浮かべるのみ。
まあ資料に書いてあるとおり肯定ってことだろう。
ただはっきり口に出すのは憚られるだけで。
もらえた資料に書いてあるのは委細な書き取り。
そして問題の場所と戦略地図……
間違いなく国防資料だ。
ここの大陸は国1つとはいえ敵は魔物や悪の組織たちそれに対立する者たち各々細かくある。
それに1つの領地が1つの国みたいなものだ。
互いにゆるく繋がっているとはいえ限度は有る。
歴史を紐解けば戦乱だって何度も起こっていておかしくない。
「ほう……大盤振る舞いだな。それだけ今回の相手は厄介か」
「厄介ですね。現場の声をきくに、まるで災害、神か悪魔かの所業と。昨今は人形騒乱もある以上、これ以上都市を守るために、手をこまねている状況はまずいと判断しました」
「確かに地図を見る以上、気まぐれでここの防衛ラインを突破されたら首都まで一直線。がら空きですね」
今回の相手がいるのは迷宮じゃないのだ。
そこはいわゆる遺跡。
しかし城塞でもある。
歴史はここをこう呼ぶ。
「旧王都、か」
「大事な遺跡です。保護していますし、雪を食い止める役割も、ここから魔物たちがなだれ込むのも防衛しています。暮らすには不向きだったので、暖かい平野に移ったんですけれどね」
遺跡は希少な物があったりそれそのものが文化遺産だ。
さらに防衛上重要ときている。
というかここに書いてあるのって……
「あの、なんか旧王都に超巨大魔導機関があるって書かれているんですが」
「ありますよ。しかも現役。まあそこから動かせないからなんですけれど」
「そして、その超巨大魔導機関がターゲットのように見えるんですけれど??」
「そうですよ。超巨大魔導機関がなぜか意思をもって大暴れしている、けれど現状しっかり役目は果たしてくれている、そういうメチャクチャな状態なのです」
ニコニコしながら說明されましても!?
いわゆる原子炉みたいなものだ。
原子炉なのでうっかりすると大変大爆発する。
使われている種類にもよるけれど爆発した時多分毒は撒き散らさない。
この魔導機関はこれで魔力石のチャージとかエネルギー供給しているから大事だ。
なくなったら都市のインフラたちが死ぬ。
多分いくつもの範囲をこれで補っているはずだ。
これだけでかければ……龍脈が集中した土地にあるのもうなずける。 結局それだけ大きな力を生むのは大元が龍脈なのだ。
龍脈の力を魔法器具を使って変化し魔力として押し出す。
……ほらようは。核分裂の時のすさまじいエネルギー使ってお湯を沸かしてタービン回して電気を生むみたいな。
けして大地の力を吸い上げ枯らすことでうんぬんみたいな壮大なエネルギー利用法ではない。
龍脈という力が強すぎて現代魔法科学ではそのまま使うことはできないのだ。
というか将来的にも結局求められるのはあくまで光を灯す程度で街を吹き飛ばす力じゃない。
変換は必須だ。
さてあまりの展開に思考を明後日に飛ばしていたが話はなんだかうまくついた。
思考分割というかこういうとき3つくらいに私を割れると便利だよねえ。
("私"はそういうの面倒なんだよ)
(うまくやれるのはツバイだよね〜)
ドライとアインスの言葉を脳裏に聞きつつ私も返事を返す。
普段は心が1つなのにふとしたときに3つの私を強く意識することになるのはなんとも不思議だ。
……3つ? なんだかそれが本当にそうなのか割りと疑問ではあるのだが。
疑問なのがなぜ疑問なのかもわからないまま私は話を終えて防衛省を出た。