九十五A生目 工業
飴玉を患者の女性が1つ口に含む。
手袋は外した。
「あら、おくすりだから苦いと思ったらおいしい!」
そう笑顔を見せる姿にローズクオーツと『サザンクロスの花』リーダーは朗らかな笑みを浮かべた。
リーダーに至っては目尻に涙が浮かんでいる。
本当に見たくないものを少し前見たのだろう。
だからこそここからよくなるかは……彼らのリハビリ次第だ。
「あ……」
「ど、どうした?」
「なぜかしら、昔みんなで戦った時の事を思い出したの。苦しかったけれど、それでもなんとか生き延びた……すごくギリギリだったけれど、ワタシたちならなんでも出来るって、そんな気がしていたような」
「……ああ、そうだったな。もしかして、やりはじめの頃の?」
「ええ、そうね。まだ子供だった頃の……まあそんなに前でもないんだけれど」
私たちは思い出話しに花を咲かせるふたりを尻目にそっと部屋をあとにした。
それが礼儀というものだと思ったので。
私はローズクオーツと共に外を歩く。
「本当にすごかったね、あんなことも出来るようになったんだ」
「えへへ……学んでいて良かったです!」
「……その、他人の記憶は異物ッテ話なんだけれど、それは私の記憶って、ローズクオーツ的には大丈夫なの?」
実は少し前からその話をしたかった。
ゴーレムというのは制作者の記憶知識をある程度共有している。
ただそれはニンゲンの魂が入っていないという前提の話だ。
ローズクオーツはニンゲンの魂がある。
転生者なのだから。
「あー、ローズオーラさまの記憶が毒にならないか、ということですよね? 大丈夫だと思いますよ?」
「そ、そうなの?」
「ええ、まあ特に不都合を感じたことはありませんし……それに、わたくし、人とゴーレムのいいとこ取りですから!」
「ニンゲンと、ゴーレムのいいとこどり……そうなの?」
「そう造ってくれたのはローズオーラさまですから! きっと、ニンゲンと魔物のいいとこ取りだからこそですよ!」
「そ、そうなのかな……?」
ローズクオーツは笑顔で私の方を振り返る。
宝石で出来たその顔はこういうときに1番美しく輝いた。
「ええ! わたくし、ローズオーラさまのゴーレムになれてよかったですよ! 誰かを助けることが出来るだなんて、考えられなかったですから!」
こう言われて嬉しくならない制作者はいるだろうか?
さて王都は違った。
私の目的はあくまで人形神の調査。
さがすのは後2箇所か。
帰り際ローズクオーツと共に積めるほどにお土産を買いあさり工芸品を部屋に飾っているが調査が目的ったら目的。
龍脈反応的にデカくあるのが王都と……首都なんだよね。
もうひとつは他と比べれば濃い感じ。
神の噂などは探っているものの全然出てこない。
派手に活躍しているのだからもっとそれらしい動きがあると思ったのだが。
不気味なほどにその影を潜ませている。
予想以上に世界的に反撃にあったから?
それともなんらかの目的を達したから?
わからないのが不気味だ。
ただこちらの時間でもある。
一気に世界でも滅ぼされたら困るからね。
さすがに他の竜神たちが止めるとは思うけれど。
私はそれを予防しなくては。
ということで移動して参りました首都。
この翠の大陸国は王城のある王都と全国政府堂のある首都に別れている。
領自体も違っていて風土がまるで違う。
王都はいかにも穏やかな雰囲気で同時に歳を重ねた厳かさがあった。
そして首都は……
「うわ、寒い」
私としては体感そんなにだが見た目がまず寒い。
なんと雪が降っているのだ。
そんなに緯度違わないはずなんだけれど!
まあこの世界で異常気象的な変化の場所について文句言っても仕方ない。
どうせ神々のバランスやら名残やらで変化している。
蒼竜の背中こと大山脈も月日とわず降雪しているし。
そして私が立つのは高めの丘山。
見晴らしが良く何よりも大事なもの蛾ここから見える。
「わぁー、すっごい……! まるで別の国みたいだ!」
そこは雪の中だというのに赤熱した輝きがあたりを包む世界。
モクモクと上がる煙は水蒸気。
相変わらず金属より頑丈な木で造られた建造物たちは鋼のごとくで威圧感がある。
王都が人々の住まう場所ならば首都は人々が働く場所といえばいいのか。
遊びに行くなら王都だけれどビジネスは首都のほうが回っている。
「ちょ、ちょっと写真とろ……」
私はこういう変わった景色を見ると割りと興奮するタチだ。
冒険者なんで。
雪に膝下までうめながら写し絵の箱で写真を撮る。
あとでみんなに自慢しよう……
この世界で『工業化した蒸気都市』なんてここ以外見ることすらないのかもしれないのだから。