九十四A生目 飴玉
やがて出来たのは飴玉。
そうとしか言いようがない。
一口サイズの丸いコロコロとしたもの。
それが14個ある。
「それで完成か?」
「いえ、もう少しですね」
飴玉は白くてただの飴にみえる。
それらを溝の付いた皿のようなものに移し患者の体の上に乗せる。
すると淡い光が起こり皿の上にあった飴玉がひとりでに転がりだす。
飴玉は溝にそって走り真っ白で無垢だった飴玉たちは徐々に染まりだす。
外側の円の方は淡いピンクや黄色といった愛らしい色に。
内側に行くほどきつい赤や黒といったいかつい色に。
「相手に夢を見させる魔物が出す霧を、飴玉に雫として閉じ込めてあるんです。夢とは、錬金術の考えでは記憶の中から引き出され、そして曖昧に覚えていることにより幻覚のようなものを味わうことと、そう言われます」
「そ、それと今回のトラウマと、何か関係があるのか?」
「記憶、ということは……」
「はい、この飴玉は、濃縮された夢……つまるところ、記憶を細かく切り分けたものです」
そうして飴玉が止まる。
「完成までに生物が触ると夢がうつって駄目になっちゃうんですよね……」
などと話しながらローズクオーツは飴玉を集める。
そこはまさしくゴーレムたるローズクオーツの力だ。
魂ニンゲンなんだけど大丈夫らしい。
「記憶を切り分ける!? それは、大丈夫なのか!?」
「一時的に健忘のような、ええと、ちょっとした一部の記憶を失った状態にはなります。それ自体はなんら問題なく、むしろ健康な状態に戻るでしょうが……記憶の虫食い穴状態はいずれ埋め直さなくてはいけません」
ローズクオーツは飴玉を1つずつ分別れた容器に入れる。
フタを閉じたらそこに数がかかれていた。
丁寧にもこの国の使われている数字だ。
「なので、この薬を服用します。薬といっても薬方じゃないので本来は薬じゃないんだけれど……そこは置いといて」
再度開かれた容器に入っている飴玉たちはきらびやかに並んでいる。
よく見ると順に色が濃くなっているのがわかる。
「これは1つずつ順番に舐めてもらいます。じわじわと自分の記憶を取り戻せるためのものになるんです。最初は他人の物語を見ているような気分で、体に、魂に浸透すれば本来の穴に埋まるように。軽い色のものは、心の傷につながるけれど、本人の中で明るいもので、暗くなればなるほど、決定的な心の重さにつながる記憶になるんです」
「記憶を見れる、飴玉か……」
「なかなか溶けないと思うので、根気よく。物質に見えるけれど、実態は錬金精神体です。噛み砕くことも、壊すことも出来ないんです」
「他人が舐めようとすると、どうなるの?」
「試してみます?」
ローズクオーツがフタを開いて私達の方に近づける。
その途端鼻に来るような酷い臭い。
ふたりとも顔をしかめたところでフタは閉じられた。
「な、なんだその臭い……!」
「その人のものではない記憶は、異物です。夢を食べられる生物できない限り、とてもじゃないけれど口に含めませんし、無理やり食べようとしたら上か下か、どこからか出るでしょうね。なので唯一気をつけるのは、その夢を喰らう魔物くらいです」
この大陸では出るとは聞いたことありませんけれど。
そうローズクオーツが付け加える。
それらの說明を聞いて力が抜けたように『サザンクロスの花』リーダーは床に座り込んだ。
「……よかった……ありがとう、これできっと、よくなる……」
「まだまだここからなので、ぜひ治ったら一緒に連絡ください」
「お前……良いやつだなぁ……!!」
「自慢の子です」
そんなふうに医務室で騒いでいたのがよくなかったか。
患者がうなりだし目がさめた。
ゆっくり目が開きそこで……
何か話そうとしてむせる。
さっとローズクオーツが水差しを渡した。
喉が水気なくて張り付いていたのだろう。
水を少し含んで飲み下したあと。
改めて私達のほうをみて……
サザンクロスの花のリーダーを見た。
「だ、大丈夫か!?」
「え、ええ? 大丈夫だけれど、あれ? ワタシ、なんでこんなところに……? ええと、あなたたちは?」
「あ、私達は通りすがりです」
「端的にいうと、お前の命の恩人たちだ」
彼女は暴れることなく冷静さが目に宿っている。
だからこそ困惑してもいるのだが。
「命の? どうしてかしら、何か変に色々思い出せないような……」
「まあまあ落ち着け。記憶は――」
「お医者様によると、記憶の一時的な混濁はよく見られる症状らしいですよ。つまり、落ち着いていれば大丈夫だと。おくすりは、この数字通り、順にこの飴を舐めていけば良いそうですよ」
「――だそうだ」
ローズクオーツが間に入りわかりやすく改変する。
余計なことをいってより混乱させないためだ。