九十三A生目 錬金
「じいさん、もう生きる気がねえのか。ったく、なんでまた疲れちまってるんだ」
「大切な身内というのは、活力にもなれば、時として心痛める要因にもなる、ということだ」
「心労お察しします」
そもそも病自体が心を蝕む。
その上で王族たちは政治家の真似事。
王位争いだ。
そして王位とは前の王が永久に退くことで基本的には空く。
1つ1つは王にとって大したことないと切り捨てられても全て重なると王として教育を受けているとて限度がある。
そこらへんを口に含むにはさすがに気を許しすぎか。
「まあ、当たり前だがこのことは静かにしておいて欲しい。その時がきたら正式に通達がある。最近国王は外に出るのも辛そうでな。部屋の中で映像記録なるものを見るのが、唯一の癒やし、と話していた」
配信かぁ〜〜!
そいやおかねがある方たちは結構この大陸では持っているんだっけ端末……
だとすると私への反応はもう1つ別の意味も含まれていることになる。
私は1度だけその配信に出たことがある。
ちらりと聞いたがとても視聴率はよかったらしい。
……私が変に有名になってきているということだよ!
あの場に一般人が出ることはない。
VVという小神かつ顔のない神という結構あくどい存在。
対等に同じ場に出られるというだけでその裏事情を知らずとも注目されるわけだ。
そんな知りたくなかった話も交えつつ数十分その場の話はその場限りとして解散になった。
さて報酬はともかく私は冒険者ギルドに行かなくてはならない。
救助した手続きもろもろだ。
それにローズクオーツもついてきた。クライブはどこかへ消えている。
冒険者ギルドでは依頼完了の手続き。
慣例として冒険者労働組合に負担を担ってもらえた。
7割くらいの依頼達成代が冒険者の場合は負担してくれるのだ。
ただ助けた冒険者のチーム『サザンクロスの花』のリーダーはなんとも深い溜め息をついていた。
「そういえば、あの倒れていた方はどうされました?」
「実はそのことで悩んでるんだ……たしかによくなったし、医者からもわたした情報は驚かれるほど喜ばれた、おそらく快方に向かう」
「それなのに、良くないことがおきた?」
「ああ……アイツ自身が意識を取り戻してから、ずっとうわ言のようにつぶやきながら震えるようになっちまって」
「ああ……ココロの傷ですか……」
冒険者というのは得てして傷つきそして何より傷つけやすいという立場にある。
それで蓄積するのは心の傷だ。
きっかけは身体が傷つくことだがためていたのは相手を傷つけていたことだったりするのは珍しくないそうだ。
つまるところ戦えば戦うほど起こしやすいことでもある。
乗り越えるチャンスがなければ挫けたままだろう。
投薬やカウンセリングを行いただの日常に戻らせるパターンも多くある。
要は廃業だ。
「はあ……こんなところで終わりなのだろうか……」
「さすがにそれはなんとも。体の傷はともかく、心の傷は私にはどうしようもありませんから。効果的だと思ってかけた言動が、悪手になることも多いですから」
「あ〜の〜……」
そこで私と相手は声の方を見る。
ローズクオーツがいたたまれない雰囲気で佇んでいた。
「ローズクオーツ?」
「ゴーレム?」
「その、1度見せてもらうことは出来るでしょうか?」
さすがに王都にあるだけあって養成所というよりかは医院と呼んで支障ない大きさの施設だ。
清潔な中では例の毒をくらってダウンしていた彼女がそこにいた。
「これは……」
「今は眠っているようだけれど、起きたらまた暴れるかもしれないらしい」
患者の手には厚手のグローブがはめられていた。
寒暖差を調整するものではない。
その証拠に使われているのは頑丈なだけで綿や綿などあたたまるものではなかった。
いくつか追加で包帯を巻かれた跡もある。
あのあとついた傷……ということだ。
「それで、何をするんだ?」
「おそらく……出来ることがあります。習ったことがあるので」
実は錬金に関してローズクオーツがどういう術を出来るのかがわからない。
ある程度冒険に役立つ動きをするのはわかるんだけれど。
それ以外はよくしらない。
ローズクオーツは水飴やレモンなどまるで料理のような品を取り出す。
そうして最後にまかふしぎな煙の込められたフラスコ。
淡いピンクだが角度によっては虹色にも見える。
それを専用の機材なのかいくつかのゴテゴテとした器械を並べていく。
煙を火にかけたり水飴を混ぜ込んだり煙は途中で冷やされ液体になったり……
はてさて何ができるのだろうかん
私達はその行動を見守ることしか出来なかった。
真剣なローズクオーツの横顔を見守ることしか。