九十一A生目 化狸
人形騒ぎ。
それは私が追っている事件そのものでもある。
とはいえ後の話はあたりさわりのない言葉で王様が憂い顔からニコニコ顔に戻るころに解散となった。
結局未然に防いだのはクライブと他多くの冒険者たちによる力だというのはわかったけれど。
「ご褒美期待しててねぇ!」
と朗らかに退出していく後ろ姿はまるで敵のいない動物園の獣。
しかし私がその最後背中を見せた時の後ろ姿に感じたのは他の面々と似たことだったようだ。
「ったく、あの化け狸がよ……」
クライブが椅子にどかりと座り込みながらつぶやく。
ちなみにこの国では狸はいないので似た言葉を当てはめた。
どこの国にもそういう人を揶揄する言葉はあるのだ。
ここは客間にあたる場所らしくみんなで腰を落ち着けていた。
キャサリン王女も一緒だ。
「まあそう言うな。国王も嫌がらせでやっているわけではない。処世術が骨身に染みているだけだ」
「その上で面白おかしく趣味で振ってくるからたちが悪いんだろうが」
「……はは」
キャサリン王女も心当たりあるらしく苦笑い。
「あの王様、そんなにすごい方なんですか? わたくしはそこまで考えていませんでした」
「ゴーレムにとってはそうだろうな。人間というものは、面倒な腹のさぐりあいがあるんだ。あのクソたぬきはそれを息をするように仕掛けてくる。主人を守りたいなら、相手の腹芸の1つや2つ、見破れるようになれ」
「は、はい!」
そんなもの覚えなくていいとは思う。
ただ王が癖が強いのはたしかだ。
力ではない危険をひしひし感じた。
「ともかく、私としてはあの魔物の力に関してさらに詳しく調べたい。盾の方は、この城にあってもむしろ邪魔、ぜひ持っていって欲しいね。報酬というには、少し危険すぎるけれど……」
「ん? 何かあったのか?」
「盾が暴走した」
わあ。
「暴走?」
「ああ。どうやら我々が離れて少し後、突如盾が震えだして毒液がジワジワ溢れて来たらしい。慌てて管理するものたちは使っていない大きな池に投げ捨てたがそこでも止まらず池は汚染、なのに突如収まったと思ったら我々が帰ってきたらしい。まあ……わかるな?」
「使い手を選ぶ類か」
「ああ。例に漏れずな」
どうやら盾はかなりじゃじゃ馬らしい。
神の武具ってどうしてもそういうところがある。
だからこそ魔物が暴走するのだし。
ああいうのがあの広い迷宮のどこか片隅に発生するだけで大被害だが世界単位では発見は後を絶たない。
そして世界中の冒険者たちが活躍する。
すぐに世の中神器だらけになってしまいそうだが実際のところこうやって管理不可能なことが多い。
暴走して封印したり。
自壊してしまったり。
勝手に消えていってしまったり。
見つける=手に入るとはそうなかなか世の中うまくいかない。
そんなに簡単だったら宝石剣集めだってもっと簡単に済むのだけれど。
「では、ありがたく受け取ります」
「それとは別にしっかり、こちらの報酬を冒険者ギルドを通して渡す。依頼という形に直してな。結局、そこがネックだからわざわざ王城にきたのだろう、クライブ?」
「ああ。なにも依頼は出されていなかったからな。倒し損は勘弁だ」
「あー、だからわざわざ来たんだここに」
「お前はもう少しそういうのに気を配れ」
どうしても私はランク上げや報酬のことでガツガツしていないからなあ。
冒険者としてはあまりよくないことはわかってるんだけれど正直まるで活かせてないから……
海外に出ても身分をしっかり活かせている段階で結構役割を得ているんだよね。
もちろん一線を画すと言われているX帯には興味ある。
ただあれはポイント稼いでいけるわけじゃなくてそういう冒険者たちを指し示す俗称みたいなもんだしね。
……っとやることと言えばだ。
私は私のやることがあったや。
「その、話は変わりますが、龍脈が国のあちこちで流れが変わっているのはご存知でしたか?」
「龍脈? いや、私は知らないな……どういう流れだ?」
あの後各地で調べた所あちこちで龍脈の流れが変化した形跡が見られた。
ただしそれは流れの変わり方であって届いていないというわけではない。
わざわざ調査しなければ大半の場所は流れが変化したことにさえ気づけ無いだろう。
最初のあの土地がたまたままったく届かないだけなのだ。
つまるところ副次的な効果によってあそこの土地は犠牲になったのかもしれない。
捕まった領主組もあまりわかってなかったそうだし。
「これがウチで調べた龍脈の変更図です」
ぱらりとまるめてあった紙を開く。
これは地図だ。
とはいえ軍事上使えそうな地図ではなく高低差も無視して地形だけざっくり書いてある。
そして大事なのは大量に書き込まれている龍脈の流れだ。