九十A生目 王様
そしてたどり着くのは玉座の間。
来ちゃったよ。
周囲には鎧を着込んだ騎士たちが立っている。
今回は正式な場じゃないからあくまで簡素にニンゲンたちがいるだけだ。
多分王族はキャサリンだけ。
「ここで待てば良いのか?」
「そゆこと。まあすぐ来るけどね」
「うわぁー、凄いキラキラしてますよ! キラキラ!」
ローズクオーツの精神年齢と語彙がそれ相応にひきさがっているが後はあまりにいつも通りである。
先触れが行っているらしいのでここで問題なく待てばいいそうだが……
おっと気配。
「王が入室なさいます」
全員何かするのかと見回したが背筋を伸ばした程度だった。
クライブに至っては何も変わっていない。
本当に何も気にしていないらしい。
騎士に先導され王が中に入る。
ニコニコしていて分厚いローブを纏い周囲に目を向けてそれからゆったりと座る。
「楽にして良い」
騎士たちが武器を各々楽な体勢にして文官たちは伸びた背筋が少しだけまるまる。
クライブは目を閉じてローズクオーツはそれらを興味深げにキョロキョロしている。
キャサリン王女はニコリと笑顔になった。
いやあ……恐ろしい。
敵意を感じない。
それなのに周囲の者たちから慕われている雰囲気がある。
政治家は直接会うととても人当たりが良くてうれしくなってしまうほどとも言う。
この王も同じだ。
絶対暗殺とかされないだろという雰囲気があるからこそだ。
ただ威厳ある王とは一味違う……百戦錬磨ゆえの好々爺らしさがあった。
「おやおや、王のような能力を持つ若者とは、なんとも嬉しくなるねえ。同じよしみとして、仲良くしようか? ローズオーラくん」
「はっ……えっあっ、私!?」
「もちろん!」
ニコニコニコニコと朗らかな声はどこまでも暖かく包み込む。
異常だろうそれは。
わかっているからこそなんともしがたい。
おそらく常ににじみ出るタイプのスキル。
しかも私と似た……"無敵"系統のスキル!
王の愛みたいなスキル名なのかしら。
「えー、その……」
「国王陛下っ、あまり冒険者を虐めないでくれると助かります」
「すまんすまん。なに、貴女のような世間を股にかける冒険者に縁を得たいと思うのは不思議ではなかろ、ふぉっふぉっ」
く、くえない!
今のはキャサリン王女が言外の言葉を理解して止めた。
簡単に言えば仲良くやろうである。
王というのはたとえ政治に携われなくても絶対的な力を持つ。
はいでもいいえでもいいように発言をあつかわれてしまうのだ。
特に目の前のニコニコおじいちゃんなんかは特に。
「おいじいさん、そういう話には興味ないって毎回話しているだろ」
「おお〜! クラ坊! 初めての相手の方が先ですまんかったな! 何、クラ坊が活躍した話はしっかり聞かせてもらうよ!」
「だから坊はやめろっての!」
どこかしら雰囲気が子供に近くなるクライブ。
なるほど昔からの知り合いか。
それでもタジタジのようだが。
「そして、儂は初めて見るタイプじゃがゴーレムか! ゴーレムといえば、もっと大きくて門を守るようにいるような存在を思い浮かべるが、実にういのう」
「ありがとうごさまーす! 自慢のボディです!」
さて落ち着いてきたところでニコニコ王をちょっと良く見よう。
痩せ身の身体を分厚いローブてカバーしている。
王冠は豪華な見た目だが見た目よりも軽く簡素のようだ。
そしてこういってはなんだが……
真っ当に上質な格好で安心したよ!!
もちろん特別な羽根があしらわれていてそれがキャサリン王女と同じものだとわかるなど特別な依託はある。
ただキャサリン王女みたいなぶっ飛び加減はないようだ。
だからこそ怖くもあるが。
それにこの王についたお香のにおい。
それは私の鼻からしたら明らかに隠しているものがわかるが……
そう考えている間にも話はキャサリン主導で進んでいた。
「――ということで、報告を終えます。国王陛下、委細をつめる作業は今行っていますが、まずは先に報告をしました。襲われた冒険者たちの書類もまとめて、後で提出します」
「わかったよキャサリン。それにしても憂い事態だねぇ。元凶を回収できたとて、その次が出てこない保証もない」
「そこらへんは俺たちがやってやるって言っているんだ。じいさんたちは出すもの出せばそれでいい」
「結局はそうなるだろうねぇ……予防が出来たら1番なんだが。例の人形騒ぎと言い、なかなか困ったものだね最近は……」
「人形……あの人形が魔物を率いて街を襲うという?」
「うんうん。王都は未遂で防げたとはいえ、世界中で起こっていると聞いてねぇ……」
意外なところから話が繋がったぞ?