八十九A生目 腐敗
あのミルーカから直接話をしたむねを話す。
本来なら危険なことだが彼女の言葉には嘘はない。
ミルーカときいたときも驚きと……わずかな喜びの声音がした。
「へぇ……あのミルーカがまだ無事だったなんて……噂ではとっくに、病死していると」
「病死? なんでまた」
「ああ……そうだな、なんというか、『隠居』とか『自害』とか『御隠れ』とか言い回しは色々あるが、つまりその手の誰も悪くない言い回しのことだ」
「ああ、はい」
暗殺や処刑されたという言葉ですねわかります。
「ともかくだ。表で言うことは今はできないが……生きていてよかった。それは確かだ」
「彼自身は、とても悔やんでいましたけれど……今は安全な土地で心機一転していますよ」
「頼んだ。連なるものたちの処分は、王族主導じゃない。全国政府も、どうやら1枚岩じゃないらしいからな。それと……すまない、頼んだ」
「全国政府が……はい、はいわかりした」
サラッと投げられた情報はお政治の時間の予感。
つまりミルーカたちは大規模に嵌められていたことになる。
国家単位の生贄ならまだマシで実際は軋轢でたまたま途中潰れてしまったような扱い。
外敵も事実上いないこの国は思いもしない歪みを含んでいるのかもしれない。
まあ歪んでない国なんてないか。
そして頼まれてしまった。
間違いなくミルーカのことだろう。
放任しているが安全は確保できているはずだ。なにせアノニマルースだし。
「そろそろつくぞ」
先行していたクライブがこちらの話が区切られたタイミングで話しかける。
私とキャサリンは互いに頷いて素直についていった。
「おおお、これが! おおおー!!」
凄まじいテンションの上げ幅を見せるのはもちろんキャサリンだ。
破壊痕に猛毒の後を見て毒をサンプルとして採取している。
違いを探るらしい。
「……いなくなっているな」
「まあ、さすがに時間たっていますからね」
そしてムゲンドクたちはいなくなっていた。
まあアノニマルースに回収されたんですけれどね!
秘密である。
それにしても落ち着いてここを見るとまあ酷い惨状である。
私達が破壊した跡地も酷いし巨剣が振り下ろされるたびに地面の葉は切り裂かれ毒で腐り落ちていた。
毒液は当然あらゆる植物たちを蝕み解毒根治が困難。
ニンゲンについたのも解毒したうえですぐ再発し溶かし力を奪った粘る毒だ。
魔法ではなく本格的な医務班がこないとどうしようもないだろう。
道中もそんな話を交わしてきたのでキャサリンは現状をしっかり理解している。
興奮してはいるが真摯にそして思慮をめぐらしていて。
そしてため息を吐いた。
「確かに、これがここで止まってくれたのは奇跡の所業でしかないな。それに毒なのに、毒としてはありえない力も見える。毒を癒やしているのか? 毒が再生するとはね」
「それには他の奴らも苦労していたな。その力が……なんだっか?」
「神の力ともいわれる、越殻者の力ですね。ええっと、今見えるようにします……どうぞ」
「わっ!? な、これは一体!? 輝きが、どこからも……!」
念話を受け入れてもらって視界を共有化した。
"鷹目"も使ってシンクロさせたそれは私やクライブの視る世界を映し出す。
慣れてなければ辺り1面神力で輝いているように見えるだろう。
「えっ! 眩しっ」
そして私達を見て目がくらむ。
まあ私とクライブは残り香じゃなく発し続けているし。
そしてローズクオーツは神の被造物という扱いに不本意ながらなってしまって身体が神力を練り込まれている。
見慣れていないものからしたら目に毒だ。
というわけでオフにする。
「こんな感じでした」
「そなたたちも、越殻者というわけか……割と冒険者ではいるのかのう?」
「いえ、いないと思いますよ……? ここがおかしいだけで」
ローズクオーツが笑いながら訂正した。
改めて城内を落ち着いて見回す。
中では高級感溢れる品物が使われているのは前提として全体の調和が緑に傾くようにされている。
というわけでお城に戻ってきました。
今度はちゃんとした出迎えだ。
こっちの押し通りじゃない。
緑のベースカラーは明らかに翠竜イメージだろう。
最初の個室より豪華絢爛な道を行く。
廊下の方が豪華って違和感があるが『城塞都市の』『わざわざスペースをつくる廊下』なので贅沢な仕様なのは間違いない。
そしてそんなところを通るということはこれから出ていく場は公的な場ということである。
……結局まだ着替えてないんですが!?
キャサリン王女も着替える気配はないしこのままいけってことかしら!? なんかワイルドでついていけないわあ。