八十八A生目 王族
キャサリン王女が迷宮の木をツタをうまく使い跳んでいく。
格好が格好なだけにワイルドさがすごい。
もはや自然の恵みで生きてきましたと言われても信じてしまうかもしれない。
しかし実態はニンゲンたちがニンゲンたちへの被害に心を痛める王女だ。
あのときの顔と声色は確かに憂いていた。
それを隠すように今はっちゃけているわけだが。
着地してさらに先に進む。
「ニンゲンがニンゲンを、というのは、やはり政治絡みも多少?」
「ああ。王族を殺害しよう、と謀るものもいれば、王族を殺害しようとする計画をたてていたと擦り付けて貶そうとする輩も、な」
「それは、もしかして……」
「なんだ、知っていたのか? まあ、あの処刑は大々的だったから知らないのも無理があるか」
知っているもなにも当人のミルーカに会っていますとも。
「ええ、知っていますけれど……キャサリン王女的にはあの事件はどのようにお考えで?」
「そう、さぐりさぐりいわんでもいい。そうさな……これは普通にしていれば国の民はわかることだから話そう。今王族は、3つの派閥に別れている」
ちなみに王族は結構たくさんいるらしい。
そのことは知っている。
ちなみにハーレムではなくそもそも王の兄弟がたくさんいてその兄弟もみんな結婚していて子供たちがいてその子供も結婚していて子供が……とめっちゃいるのだ。
そこは調べた。
普通に公開情報だし。
国民たちは割りと当たり前のように誰推しか語るので酒場で話を理解するのに前提の知識としてある。
ただだからといって全員の正確な顔写真が手に入るはずもない。
写真機はまだごく一部の国にしかないからね……
絵だと各々脚色していてしかもみんなしっかりとした服装だし。
今横で共に駆けているワイルド王女は絵の中では王族然とした美しい姫君なのだ。
「1つめの派閥は今回の裁判が正しかったと判断するものたち。王族から処分者と連なる者たちの死があって、しかるべき処分と判決があったとされている。この派閥を肯定派と言われることが多い」
「肯定派……」
「2つ目がようは逆だ。あの判決はおかしく、彼は無罪だったとする姿勢。裁判でくだされた判決は基本覆らず、そもそも死んだ命は帰ってこない。それでも、裏があるのならばこれで終わってはいけないと声高に叫んでいる。つまるところ否定派だ」
「肯定派に、否定派……」
「3つ目は……これは国王も該当するが、判決が下った以上それを覆す気はないが、深く立ち入らないことを決めたか……または事態を重く見て陰ながら時間の裏を洗っているものたち。政治的関与より真実の発見か……そもそも興味がないかのどちらか。これらは中立派だ」
「肯定派、否定派、そして中立派ですね……」
王族はその3つか。
ではキャサリン王女は?
顔を見ると真摯な目つきでこちらを見ていた。
「私は中立だ。どうも今回の話はきな臭い。そもそも今話した肯定派と否定派は、そのままの形はただの表向きの話だ。実際はその事件より前からある亀裂が表面化したにすぎない」
うわあ面倒くさい政治からみの話になってきた!
象徴王族であり政府は別だとはなんだったのか。
それでも争いが激しいのか。
そして背後を見て見ると護衛たちが明らかに振り切ってしまっている。
もしや……
「その、もとから対立していた云々……って、外の相手に聞かせちゃだめなやつなんじゃあ」
「さあて?」
いい笑顔で返された。
だめなんじゃん!!
「ともかく、もとより隠蔽されていた不和と対立がここにきて活発になってきている。どちらの派閥が王を据えるか、というな」
「……やっぱりそこに行き着くんですか」
「ミルーカは今でいうところの中立派だった。狙いやすかったんだろうな、市民への料理店商いに力を傾けていたうえ、昔から政治ごとは得意ではなかった」
「だから王様は中立なんですね」
キャサリンはうなずく。
そりゃそうだ。内心はどうあれ立場として中立を保つだろう。
王族の対立は国の不安をそのまま招く。
政権を握っていないとはいえ国の民たちの象徴だ。
偶像が揺れれば国民たちも揺れる。
「かなり思うところはあるが、逆に言えば今王族は互いを牽制し動けない。下手に水面下で手を出せば、今度は誰の首が飛ぶか分からないからな。おかげで調査の方は進められる。その顔を見るに、他の王族との接触や話なんかがあったんだろう? 一体誰がどうした? 言いにくいのなら良いが」
「ええっと……ミルーカさん本人から……」
「……え、な、何? なんて? ミルーカってあのミルーカ!?」
「そのミルーカさんです」
「なっ……!」
驚きで固まってしまってた。