八十七A生目 王女
「神の力……越殻者なしでは斬れぬ毒の敵か……にわかに信じがたいが、そなたたちが嘘をつくメリットもない。駆け出しならともかく、高ランクの冒険者だからな。それに……」
キャサリン王女が緑髪をなでつけつつ青い瞳を使いのものに投げかける。
すると、
「間違いありません……詳細すら見えない、神器といって良いものかと」
「神器、か。これを扱いこなしたり、取り込めば越殻者となると。確かに昔から超常の力を引き出すものはいたが、最近ではそのような解析も進んでおるのか」
「ちなみに、俺も越殻者らしい。指輪を使えるからな」
クライブがちらりと見せた大きな指輪に鑑定さんが青い顔をする。
キャサリン王女は呆れるようにため息をついた。
「まったく、頭痛の種ばかりだ。幸いにしてその頭痛の種は今目の前にふたつともあることだが」
「まだ未発見な頭痛の種もあるだろうな」
「ああ……冒険者諸君の活躍にはさらなる期待をしているよ」
褒める言葉を言いつつもキャサリンは苦虫を噛み潰したかのような顔をしていた。
まあそりゃそうなるよな……
苦労が向こうから突っ込んできたんだもの。
「わかっているとは思うが、この盾は厄だ。室内にあるだけで毒により城を沈められるような物を献上しろとはいわないよな? そもそも正当な報酬だ」
「詳細なデータを取らないとなんとも言えないが……すごいなこれは。毒であっという間に容器が満たされた」
私が実験として結界作って透明な器とすることでその中で盾を起動する。
起動そのものは簡単で所持者がスキルのように扱える。
感覚でわかるのだ。
しかも所持者っていったけど別に持っている必要もない。
今私達が所有権あるから触ったあと離れて念じればオッケーなのだ。
こんなゆるい条件であっという間に1リットルくらい毒が出てしまった。
止めるのも同じく念じればいい。
そして毒は消える気配がない。
どうしようこれ……
「もちろん記録はさせてもらうが、王家としてももらっても困るものの中でもトップだな。政府はまた別だろうが、少なくとも私はいらない」
「ならいい。あとは実際の被害を誰かに確認させろ」
「ふうむ、実際の被害か……」
なぜだろう。
今のクライブが放った言葉で王女様の目が輝いたかのような。
「私が行こう!!」
なんで!?
あ、毒は検分のために王家の全身着込んだニンゲンたちが回収しました。
ワープして迷宮の入り口からはいる。
最初は現場に直接飛ぼうとしたが足を直接運んで道のりをしっかり理解したいらしい。
「確かローズオーラは異国の民だったな? ということは王族に関しては?」
「少しだけ。王族と他に政府というものがあって、国家運営は政府がしていると」
キャサリン王女は足手まといになるどころか身軽に木々を跳び移っていく。
メチャクチャ護衛ついてきているが振り切る速度だ。
というか明らかに振り切ろうとして速度だしている。
クライブは我関せずで案内しているし私とローズクオーツが周囲をかためることとなる。
「十分だ。王族は象徴君主ではあるが同時に実務を担っている。趣旨のある業務を運営し及ぼす範囲が限定的な経営を行っている。そうだな……市民の言葉で言うなら、各々商隊の主と言えば良いか」
つまり会社のことだろう。
理解しているむねを伝え続きを促す。
「そして我々は各々得意とする分野が違ってな。鉱山を指導するもの、勉学に通ずるもの、魔物を観察するもの……とな」
「つまり、キャサリン王女は魔物を?」
「そうだ。正確には魔物環境研究所所長となる。全国に連なる冒険者ギルドを含む多くの迷宮に関係するギルドと連携をとり、魔物とそれに連なる環境……多くは迷宮を研究している。なにせ、取れるもの1つ、魔物対策1つとってもなにも分からなかったらどうしようもあるまい?」
私も魔物ですと言ったらびっくりされるだろうか。
「ちなみにそなたが魔物なのは知っているぞ」
「……えっ」
「大丈夫、他言はしていない。何、立場的に冒険者ギルドの情報を詳しく見られるのだ」
キャサリン王女はクライブのほうをちらりとみる。
しかしクライブは見られたことを気づいてこちらを軽く見るだけでまた前に視線を戻してしまった。
どうやら会話すら聞いてないらしい。
「それは……まあ仕方ないですね。安心しました、魔物だからといって排除しようとする方も少なくはないので」
「ふふ、魔物というものを一緒くたに危険視するものは、まあ少なくない。戦闘の出来ない民にとって危険なのはかわりないからな。だが上から見ているとだな、果たして民に被害を与えるのは魔物と人、どちらが上かと言われたら断然後者なのだよ」
わあ。聞きたくなかったことかもしれない!