八十二A生目 変貌
怪訝な顔をしたクライブだがすぐ目の前の現実である戦いに向いた。
私が行動力ほぼ減らないのはやっぱり意外に思われるんだろうなあ……
非常用にあけておく1枠以外の3魔法はとにかくぶっぱなしていく。
クライブが毒を受ければ回復し。
ローズクオーツが回復中は攻撃飽和で近づけず。
攻撃全部広域化させてとにかくムゲンドクたちをまとめて吹き飛ばしていた。
魔法合成で周囲一体を土槍で覆い尽くしながら空間ごと引き寄せたり。
周囲に触れると体力が落ちて鈍る不思議な黒い光源を放ったり。
あたりは既に戦場さながらの光景だった。
とにかくムゲンドクにとって嫌な現場をつくる。
どれだけ叩いても分裂する限りは生き残るが……
逆に継続的に攻撃が飽和しているとやがて潰されてしまう。
ムゲンドクは正気じゃなくとも私がフリーだとあぶないと判断していて先程からチマチマ攻撃は来るが……
「この程度!」
詠唱の邪魔になるほどは来ない!
斬り裂いてくる剣圧飛ばしをイバラではたき落とし剣ゼロエネミーを向かわせて逆に斬り裂く。
この戦局……安定してきたぞ!
「……なんなんだあいつは、ゴーレム使いではないのか? まあいい、隠し技なら俺にも、ある」
クライブは右手の剣を振るってまた1体のムゲンドク最小体を斬る。
すると死角になった左背後から毒剣が飛んできた。
それを回るようにして剣で弾き……
そこにムゲンドク本体がいない。
さらにまた背後に回り込んでいた。
今から剣を振っても間に合わない。
しかしクライブは慌てなかった。
左手に炎の魔法を宿して一気に振り抜いたのだ。
すると炎が放たれ急角度を持って曲がり迫っていたムゲンドクに直撃。
軽い爆発と共に燃えてムゲンドクが分裂し逃げた。
「俺のこれは華美ではないが、確実だ。戦いにいる力だけのものだ」
「魔法、使えたんですね!?」
「言っただろう、ソロだとどのチームでも問題なく動けるようにしなくては、と」
ムゲンドクは潰される程に小さくなり……
そして総数が減っていく。
相手はもうジリ貧というやつだ。
「あっちは乱雑に突っ込んでくるけれど、こっちは回復リソースが切れることはないだろうし、みんなの行動力も残りが余裕確保できている、回復溶液もあるからねー」
「最初が1番つらいタイプでしたね、あとは油断なく詰めるだけです!」
「普通は回復リソースが切れない、というのがおかしいのだが……たしかに常に回復してきているからな。なんとも言えんが……」
クライブは納得のいかなさそうな声色だけれど結局何も言わず剣を振るう作業に戻った。
なんなんだろうか。
残りはもはや3分の1程度だろうか。
最初に猛攻を強いてきたムゲンドクたちは見る影もなく逆に私達3人に猛攻を仕掛けられている。
あとは追い込むだけだが。
「不気味だ」
「不気味だね」
「え? なんなんですか、ふたりとも……あとちょっとなんだから、やっちゃいましょうよ!」
クライブと私の声が重なる。
これは何か明確に言えるわけではないけれど……
言うなれば冒険者のカンなのだろう。
目に見えてあとわずかまで追い込んでいる。
普通はここにきて盤面はひっくりかえらない。
ムゲンドクは正気を失っているのだから。
……私とクライブは目線を合わす。
ここが踏ん張りどきだと。
おそらくまだ何か来る!
「グッ!?」
「わっ!?」
「んん!?」
「カアアアアアアアアシュ!!」
そしてその時が来る。
突如発光からの大絶叫。
光をともなうそれは空気をまるごと吹き飛ばし振動させ私達をひるませる。
今までのムゲンドクの色合いとは違う。
前まではまさしく毒々しかったのに今や赤く輝き警戒色。
私達はすぐに止められるように剣ゼロエネミーを飛ばしたり大剣を叩きつけたりする。
それでも凄まじい威圧感により剣がまるごと弾かれる。
圧力はムゲンドクたち自体にもかかりどんどん集まっていく。
そして……唐突に毒が奔流した!
溢れたした毒はあっという間にあたりを飲み込んでいく。
私達は急いでその場を離れた。
幸い足場の下は底の見えない闇。
溢れる勢いさえしのげる場所を見つければこっちまで侵食してくる恐れはない。
「こっちへ、早く!」
「くそっ、飛ぶ装備良いな! 今度俺も見繕うか……!」
市販品としてはないものの冒険者は空ぐらい行ける者は多い。
私も背中から出す翼のような骨格みたいなイバラを装備だと思われたらしい。
まあ服で生え際隠れているからわからないよね。
大きな木のうろに隠れてやりすごす。
葉の1枚1枚は家よりも大きく毒の飛沫を防いでいた。
絶対何かまだしてくる……!