七十六A生目 正体
とりあえず逃げ切ったと判断した毒の魔物の次の行動は速度を緩め……
「いつも思いますけれど、その状況再現力すごいですね?」
「におい、形跡、あと経験に知識。それでどのような動きをしていたのかを推測し、組み立てているんだ。もちろん本当にそうかはわからないよ? 証拠によって状況再現は変わってくるから」
それにある程度ざっくりした想定で大丈夫。
なぜなら結局どっちへ行ったかわかればいいんだから。
迷宮は広く同時に迷いやすいからね。
よしだいぶ近くまで来ているぞ。
においの新しさが増してきた。
新鮮なにおいはもう少しでそこにいるなにかを見出す。
そうして私たちがやってきたのはいかにもって感じの大きな木の広場。
あまりに大きな木が1度死んで倒れ結果的に広場のような空間の切株がのこってしまったのかな。
皮のめくれて大きなドームみたいに曲がっているのは大自然の脅威を感じる。
そしてその中に。
『いた』
私達は息を潜め念話でやり取りをする。
外から見ても巨大なドームの中にその影を見た。
よく寝ているようだが……
近くまでいかないと影が広がった下にいてよくわからない。
いやまあ"見透す目"を使えという話でもあるが。
でもわざわざ私だけ見る意味は薄いのでとっとと降りる。
近くまで来ることでこの広場は私たちが豆粒くらいの差なのがわかった。
大きなドームくらいはふつうにある。
ここでスポーツできたら楽しそうだ。
だが今は主がここにいる。
ローズクオーツと共にそこへと降りていく。
相手はまだ気づかず眠っているようだ。
その姿はまるで燃える毒。
多すぎる毒の分泌量がうねっていてまるで焔のように。
しかも外側にいくほど揺らめくようにガス化しているらしい。
幸い空気は汚染されていないようだ。
理由はわからないけれどすぐに空気で分解されるタイプの毒なのかな?
その代わり液体のときはまるでヘドロのようだが。
そしてその巨大な毒泥は中央あたりに顔らしき部分があった。
目を閉じすやすやと眠っている。
まったく持って無害そうな顔だがこの毒たちはまるで逆を語る。
"観察"!
[ムゲンドク Lv.38 比較:強い(越殻者) 危険行動:ヘドロストライク]
[ムゲンドク 神力を得て越殻者になることでさらなるトランスを遂げた。自らの身体の毒どこでも本体に出来て、どんな攻撃も避けられてしまう]
『げえっ、エクシーダー!』
『エクシーダーって、あの神の力を持つという?』
『そうだね。そりゃあこんな相手、敵わないはずだよ。中に神の一部でも取り込んだかな……?』
『それって、かなりマズイのでは?』
『マズイ。放っておいたらあたりの環境が壊れる』
神の一部はそれだけで偉大だ。
あるだけで水を生むものがある。
あるだけで火山を生み出すものがある。
そして目の前のはあるだけで猛毒を吐き続けているように見える。
ヘドロはあちこちに残っているし迷宮を徐々に冒していくだろう。
つまり危険。
『色々補助魔法はかけておいたけど、毒対策は自力でもお願い。多分あの液は、重いよ』
『食らったらまずそうですね……最初は一気に仕掛けましょう!』
私もそれに意義はない。
静かに魔法を構えだした。
ローズクオーツも自身の身体に錬金しだす。
ローズクオーツは自身の肉体がテテフフライフという宝石で出来ている。
テテフフライフは錬金の媒介として優秀でそれを学んでいるローズクオーツは自身の身体を変化させられる。
『錬金変身』
ローズクオーツは亜空間からいくつか鉱石と魔物の一部を取りだす。
それらを自分の身の内に込めだす。
やがて淡いかがやきと共に一体化した。
『炎帝!!』
ローズクオーツの全身が真っ赤に輝き頭から髪の毛のごとく炎が溢れ出す。
頬がちょっと赤くなっているようにも見える。
反射の角度の問題かな。
明らかに炎の力を使います! といった風貌になったローズクオーツは全身にパワーをためだす。
炎がまるで意思を持つかのようにローズクオーツにまとわりつきどんどんと燃え盛っていった。
相手から遠くなければ気づかれていたかもしれない。
私だって出来得る限り静寂化させた魔法を展開しているが強者特有の気配感知に引っかからないよう遠距離ギリギリにはっている。
さてどう先手が入るか……
事前情報がなければ顔に1発だったんだけれど。
全面を破壊するしかない。
それで有効打を与えられなかったら……
それはそのときだ。
神力解放。"神魔行進"開始。スキル効果で一時的にローズクオーツを神使化。
『『せーの!』』
私は火魔法"フレイムピラー"で突如大量の火柱を上げて全体を焼き!
ローズクオーツは自身が纏った炎を飛んで勢いつけて自分だけそこから抜け炎を投げる。
ムゲンドクにぶつかると凄まじい爆発が起きて空気が収縮そして大拡散した!