七十五A生目 痕跡
最後に指示通り患者の上がりすぎた熱を冷ますために動脈が大きくある場所に水を含ませた布を乗せてと。
『お疲れ様でした。あとは適切な医療機関に相談し、治療を継続してください。案内を終了します』
私の瞳に宿る光が消えて魔法が途絶える。
ふう……だいぶできているとはいけ初めての魔法を他人に使うときは少し緊張する。
あとは医者にこのデータを渡すだけだ。
「どうでしたか? 治療のほうは?」
「ローズクオーツ。うん、とりあえず峠は超えたかなって。追加の魔法で体力を回復させたし、あとは医療機関任せだよ」
「よかった、みんな心配していましたから! あ、聞き込みは済みましたよ。今データを出しますね」
声をかけに戻ってきたローズクオーツには魔物情報を聞きに行ってきてもらっていた。
私の脳裏にゴーレムと作成者における疑似SNSを通してまとめられた音声データと文字データが送られてきた。
どうしてもニンゲンは話すときに誰かと会話を交えつつ他の雑多なことも踏まえて必要な情報をなんとか捻出して話すからね。
結構「んー」とか「ああ」とか省くだけでもバッサリカットできるのだ。
『例の魔物は、見ただけでわかるほどデカかった』
『最初はケルマンのトランスしたものかと思ったんだ。フヨフヨ浮いて毒で攻撃してくる小さいやつね』
『攻撃が全部すり抜けたんだよ! なのにあっちの毒は本物だ!』
『とにかくしつこかったね、遅いのが弱点かと思ったら、変形して別の姿になったんだ』
『こっちの手持ちにある魔法で闇や雷それに火なんかも試したけれど、まるでなんの手応えもない。特に、剣で斬っても手応えがない』
『探したさ、本体ってやつを。だいたいお決まりのパターンだからな。だが、それよりもはやくアイツが捕まっちまって』
『もしいきなり現れたあの人がいなかったらまずかったよなあ』
『あの人に戦いを任せて避難したんだ』
『あの人はあのあと見てない。倒し切ったら何らかのリアクションはありそうだから、多分離脱したんだろう』
あのひと?
「誰かが助太刀に来ていたってことなの?」
「そうみたいです。名乗りもせず、2メートル以上の大剣を軽々扱っていたとか」
ええー……だあれそれ。
助太刀とかならかっこいいのだけれど雰囲気的に違いそうなのが。
……あー。
そういえば私以外にも高ランク冒険者が来ていると言っていたような。
しかも高ランク冒険者なのに依頼ポイ捨てしてどこかにいったと。
ふーむ?
悪い相手ではなさそうだけれどちょっと面倒事そうな気配。
「おーい! 撤退準備、終えたよー!」
「はーい、サザンクロスの花の方たちを街まで転送しますねー!」
「あ、ちょっと元気になっている! 本当何から何までありがとうね!!」
「マジで助かった! まかか救助待ち側になるだなんて! サンキュ!」
みんなが口々にお礼を伝えてくれる。
私はそこからあたたかな気持ちをよく聞こえる耳で聞き取りつつ。
彼らを王都まで飛ばした。
コレでそっちは大丈夫。
問題は……
「その冒険者のことも気になりますし、魔物のことも気になりますね」
「救助依頼はその原因を取り除くのもだいじなんだ。やろう!」
もちろん挑む!
そんでアノニマルースに連れ帰りだ!
私達はそのままヘドロ空間まで戻ってきた。
ちなみに大剣をもった冒険者を警戒して私は2足歩行だ。
もしかしたらちょっとめんどくさいかもしれない。
「ここ、もしかしてとてもくさいですか? わたくしはほら、呼吸していないので……」
「うん、だいぶね……ただ集中しているから大丈夫だけどさ」
私は集中し鼻を鳴らす。
情報の取捨選択をしないと鼻が曲がってしまいそうだ。
現場に残っている痕跡で1番大きなものを見つけた。
ここで誰かと毒の魔物が争いあった形跡がある。
毒が片側に飛び散っているが独特な切れ方をしている。
もう一方に焦げ跡もあるが大きな刃物で叩き斬られ刻まれた木々の地形跡。
このにおい……魔物がどっちへ移動したかわかりそうだ。
「ローズクオーツ、こっちににおいが続いているから、行こう!」
「はい!」
私はローズクオーツを連れてどんどん道なき道を行く。
木を壁蹴りして。枝の上に乗って。葉の上を駆けて。
ツタに捕まりスイングして。キノコをトランポリンのように移動して。床天井床でジャンプしたりして。
なんもないところを一気に飛んで急いでいく。
あんまりエリア移動していないと良いけれど!
やはり途中でニンゲンの気配と魔物の気配は別れていた。
別に打ち合わせてどうこうじゃなくて途中毒の魔物が大暴れしたあげくトンデモコースを走った形跡がある。
足場もなんもない場所をずっといかれると冒険者としては遠回りして向かうしかない。