六十八A生目 封岩
相手の心情はともかく急速に近づくカラクリを見破らないと。
多分そんなに難しいことはやっていない。
シンプルだからこそ初見は効く。
まだ動いていない。
まだ普通にブーストかけている。
──来た!
「種がわかった!」
今私が視界を他に向けた瞬間に転移した。
空間系魔法かスキルを持ってる!
こっちと同じかぁ……なるほどだから視界に頼らない把握方法を。
問題はいまのでしっかり接近されラインがまた生まれたこと。
"鷹目"でしっかり観ていたからわかったけどさあ!
わかっても圏内じゃあだめなんよ。
「くっ」
「今度は当てるぞ!」
"ミニワープ"するとその瞬間その先についてくる。
体が燃えているせいで継続ダメージが……!
自爆されなくてもワープの先にワープされるとキツイ。
幸いなことにこの継続ダメージは私達の攻防速度では非常に緩やかなこと。
もしもまともな時間間隔で戦っているならばあっという間に燃え尽きるだろう。
1秒のあいだにワープと高速移動を繰り返しているからこそのメチャクチャさ。
私もワープに集中したら回復がおろそかになる。
相手の生命力もかなり追い込んでいるとはいえふつうにあと自爆は1回か2回使える。
確かにメチャクチャな戦い方だがここまで効率的に相手を狩る魔物もそうそういないだろう。
なにせ相手がどのような強さを誇ってても全部無視してくるんだもの。
硬い外皮も無効化するパワーもいなす体さばきもなんもない。
向こうで完結して向こうで完封する。
まさしく襲ってきたときの様子と今とも同じ圧倒的な対話拒否デッキだ。
なのに自爆までこめてあえて敵の言葉を無理やりひねりだそうとしている部分がある。
戦いとは対話だから。
「たおれろおぉぉぉ!!」
「やらせるかぁーッ!」
アチャカリが迫りくるけれどようはこれコッチの転移が読まれているわけだ。
まあワープって注意してればわりと出現位置が素人でも割り出せるからなあ。
魔法コードを読まれているわけじゃなくて穴と影が見えるからね。
空の魔法である以上空間に作用して移動している。
三次元空間を二次元に見立て折りたたむようにして間と間をぴったり張り合わせる。
その空間を術者は悠々自適に通り抜け向こう側に行く。
それが短距離転移の正体ともいえる。
いろんな方式があるのでこれが全てではないが。
少なくとも原子分解と再合成だの転移先と転移前に全く同じ存在を作り上げて転移前だけ消すことで成り立つだのは空系魔法では出来ない。
逆に言えば目で追えるし探知にどうしても引っかかる。
だから結界系で防ぎやすいし防犯にもかかるんだけどね。
あくまで初見殺しであって連発して通用する技術じゃない。
つまり小さいワープではきりが無いので……
「今だ!」
「何っ!?」
背後に消える声を聞きながら私は樹上エリアまで戻っていた。
少しタメに時間のかかる"ロングワープ"だ。
そのかわり遠くまで一気に跳べる。
もちろん出現先探知妨害は撒いておいた。
せっかく見えないところにワープしたのに魔力探知されたら意味ない。
今頃パニックになっているだろう。
さて当然あまり時間はない。
ここで油断し負けるほどだめなこともないし……
遠隔でケリをつける。
私は本気で対処するために服を一瞬で着替えた。
魔法技術というやつだ。
ゲームとかだと装備セット切り替えというものかな。
それは大地を纏うような綺羅びやかな服装。
全身を覆い尽くして余りあるような布地には全て宝石が細かく練り込まれていて個別の判断は難しくてもどこをとっても輝く。
すべてが重そうにどっしりとした構えなのに私の体ラインをしっかり捉え包み込んである。
その上から揺らめくたくさんの宝石たちはどれもが荒々しい原石のまま。
頭部からも垂れ下がり耳すら覆うベールののような布地は神秘性を感じさせつつも落ち着きがある。
そう……これほど派手やかな服装なのに全体を見た時の印象は地味でおとなしいものなのだ。
地土の宝飾服はまさしく大地そのもの。
常に主張せずそこにあるのにその実最も重々しく荒々しく輝いている。
尾の先まで覆われたこの服には土や地の魔法力を高める。
私は手早く地魔法を唱えまとめる。
"鷹目"と"千里眼"でみる限りアチャカリは斧ゼロエネミーと格闘しているらしい。
そこにぶちあてる!
「"スパイクロック"! "スパイクロック"! もう一度ぉッ!」
素早く岩で出来た棘たちが飛び一気にアチャカリへと殺到し球体となり……
その上からさらに同じく棘が刺さって。
その上からもう1度。
合計6回繰り返して大きな岩が1つ出来上がったところで勝利したと安心できた。