二百十生目 森魔
色々と話はしたがとにかく現状維持だけでもどうにかせねばと短い時間で話し合いは終わった。
みんな頼もしい限りに活発に動いてくれる。
私も明日までに瓦礫の片付けを手伝う……前にスキルチェックをしておこう。
[ケンハリマLv.31 状態:通常]
呪いも既に消えていてレベルがありえないほど上がった。
少年ことダカシが群れごと崩壊しかねない勢いで強かった……というのもあるがそれだけではない。
ダカシは群れの多くの魔物たちに挑みそして破った。
それが"率いる者"を通して私に大量の経験を流し込んだわけだ。
ちなみに"指導者"で私がダカシを倒した経験はみんなに還元されているはずだ。
どちらも絆という認識しづらいもので繋がれた相手のみだがいつものみんなや群れ内で私とそこそこ仲が良かった相手それに妖精たちとも繋がっているかもしれない。
さて私のスキルポイントはレベル20のころから放置していたので11ポイントもある!
別にここまでめちゃくちゃ高い必要ポイントのスキルはないのだが……
最近少し慎重に取ろうと思っている。
どれが群れのためになるか、そしてひいては私のためになるかもうちょい考えながら取ろうと。
テンション高くなったまま『新しい事が出来る! うぇーい!』というのも楽しいのだが……
どうせなら最大限楽しくなれるものを取ろうじゃないかと。
それに偶然だが上位スキルの利便性の1つを知れた。
これからは積極的に上位のものを取って行きたい。
確かにスキルポイントはがっつり使うがその分のリターンはガッツリ大きい。
さて派生先をチェックして……ほしいものはっと。
[影の瞼 目を通しての攻撃に耐性を得てなおかつ精神や魂さらに心への干渉に抵抗を得る。さらに瞬膜のような保護バリアが目に追加され危険から守る]
防御系のスキルで"見透す目"の次にあるものだ。
というより見透す目への防御スキルと言っても過言ではない。
ようは"透視"や"心眼"も出来る限り弾いてしまうのだろう。
ダカシにスキルを弾かれて私も事前に防御系はやっといたほうが良いなと思い直した。
"無敵"やそれに準ずるスキルは確実に他の者ももつ。
そして彼らがすくなくともまともと言えることに使うかどうかというのも……
それと物理的な防御強化。
もう目んたまミキサーは嫌なんだよ!
すごく困る!
ダカシによる魔法封印のスキルも目からだった気がした。
持っておいて損はない。
消費スキル5ポイント。
[森の魔女 あらゆる魔法に素質と資格を得る。スキルは別で取得する必要がある。魔法への理解を深め知見を得るきっかけとなり魔法の能力を高める]
ぶっちゃけ何言ってるのかわからないスキル。
"救急魔術師"の隣にある5ポイントのスキルだ。
ただスキル名は今になってとても気になっている。
"森の魔女"とは私が"進化"したホリハリーの通称だったはずだ。
さらにあの時魔法の力に身を浸した結果これがめちゃくちゃ気になるようになった。
当たり前だが浸るのと完全に理解出来るのとは違う。
そりゃあ普通は水に入っても冷てぇなーと思うだけである。
もちろんその分の情報はわかるのだがそれしかわからない。
吸い上げ理解し満たしたいという強い欲にかられると同時にこの魔の力に溺れ死んだり冷え切って凍死は避けたい。
そのためにこのスキルは必須……
そう理解らされた。
誰かに理解らせられたというより、空腹ならばどうすれば良いかを理解するかのようなもの。
我慢できなくなるほどに、欲しい。
まあでもそれで取るわけにはいかないのでもっともらしく理屈をつける。
まず魔法は便利だし強力な戦闘手段にもなる。
最後の最後にダカシに後れをとったのは魔法に対する危機感を素早く察知しえなかったせいだ。
移動系魔法はまだ回り始めたこの群れの足になるし回復魔法は何度でも体勢を立て直すきっかけになる。
細々とたくさんあるがそのどれもこれもが重要な要素だ。
それらをさらに発展出来るのなら、取らない理由はない。
というわけで取ってみた。
だがあまり実感が無い。
うーん、これは……?
ならばと"進化"してみることに。
魔力は聖、土、光、火と。
ホリハリーに"進化"!
ググっと姿が変わって2足歩行の魔物ホリハリーに。
なんだか久々にこの形になった気がする。
……?
"進化"したその時。
私があの魔法の力にまた浸った時。
「ガ、ア……ッ!」
苦しみの声が思わず漏れる。
立っていられなくて思わず膝をついた。
実際の肉体は何も起こっていないのに熱を奪われ毛が逆立つ。
魔法の叡智が、力が、全てが流れ込んでくる!
全身がスポンジのように浸ったソレを吸い上げていく。
骨の芯まで凍るような脳が茹で湧き上がるような。
わけのわからなさが全身を蹂躙し染め上げて何もかもを犯すように……
なりかけたところで無理解が急激に理解の光へと変わった。
ひとつふたつみっつ。
加速度的に全身の恐怖は湧き上がる力や閃きへと変化していく。
あのおぞましかったものが血肉へと変わる実感。
締め付け重く冷たいものが今理解されて解放される。
まぶたをあけて現実世界へ帰ってくる。
すくりと立ち上がり拳を握った。
私は今改めて本当に『ホリハリー』に"進化"した!