六十五A生目 自爆
ビュンと走れば遠くまで!
遠くの場所にまで音速で!
世界を置き去りに走るこの感覚は誰にも譲れない楽しさが有る。
そのまま軽く崖を跳んでいい感じのところで止まる。
そして誰も見られていないところで2足に戻り自然にニンゲンたちの道へ合流。
別にバレてもいいけれど全部説明するのが大変だし毎回納得してもらえるとは思っていない。
冒険者は世の摩訶不思議さをよくよくわかっているし知識層はなんならアノニマルースを知っていることもある。
しかしそうでない他の一般的な人々は思想は自分が住むところから半径10km以内の出来事しか現実視できない。
普通に怖がられる可能性が高くやってられない。
とはいえ風のごとく速く走るのは2足の冒険者格好でも出来る。
額の瞳と胸の石を隠せばこの世界ではニンゲンで通る。
前世では獣人などきぐるみしかいないだろうが……
私はダンジョン入り口の前に立っていた。
それは噂に聞いた門の前。
いくつも連なる古びた社のような石柱が荘厳に並ぶ。
それは見るものによっては神秘的な美しさがあり……
者によっては何者も拒むような近寄りがたく古い雰囲気が広がる。
平原や森や山が続いた先でいきなりこのようや切り崩された岩場と石柱。
うーん素晴らしい!
とりあえず外には誰もいないようだ。
荘厳で場違いな大きな石扉をくぐるとしよう。
──冒険者たちは多様化した迷宮の環境に適応するために自分たちの成長と装備の開発を求めていった。
海の底のような環境にも。
空の果てのような環境にも。
そしてここは異様な空気。
それを人々は毒気の環境と称した。
大樹たちが立ち並び巨木たちの下はどこまで伸びているのか消して見えることはないという。
そして毒気の正体とは……
空気中の酸素濃度が低い。
20%もなく10%を切るのだ。
そのために冒険者たちは酸素を生み出す実をマスクに込めながらココに挑む──
巨森の迷宮。
この先へ進むには酸素マスクが必須だとかかれている看板を横目に魔法を発動させる。
水中に潜る時に使う空気供給の魔法だ。
冒険者証から出されている反応はまだ遠い。
そのままじっとしといてくれよ……?
私の足元はすでに巨木の上らしい。
大きく葉が分厚く広がっていて跳んだりはねたりしても反応しないことをチェック。
凄まじく重さと硬さが有るようだ。
地面とは違う少し冷たくてみずみずしい葉に手をそわした。
近くに他の冒険者もいて各地へ散らばって言っているようだ。
地元の冒険者達が狩り場に散っていっているのだろう。
歩いて移動するだけであちこちに魔物達が浮いている。
草花が根から独立したかのような魔物たちが風にのって集団で飛んでいっている。
鳥たちが目ざとく周囲を警戒しながら木々の間を抜けて。
車が木の葉っぱの弾力を利用し跳ねながら移動する。
車!?
「え!? 何!?」
か、"観察"!
[バギラン 6つの車輪に似たツルを使いどんな地形でも走り抜けて、別の植物と花粉を交わす。気に入った相手なら背中の空洞に乗せることもある]
なんだ魔物か……
魔物なら植物が爆走することはまあ珍しいけれどないわけではない。
それを言ったら花が空飛んでるんだから。
たくさん走っているバギランの前をよく見ると花のような部分にくりくりした目がある。
どうやら前方不注意になることはなさそうだ。
たくさん飛び跳ねていくバギランのように私も駆けていこう。
2足で力をためて……とう!
私は葉っぱから跳ねて次の木へ飛び移りそのまま駆けてまた跳ぶ。
うん、これを繰り返していこう。
「あった、これかあ」
私の五感を反映させた魔法によるマッピングにより必要な素材をめざとく見つけられる。
単にちょっと調べるだけなら注視の必要はないからね"観察"は。
木の上に生えたツル草の茂みにあった。
大きすぎて巨木の上にも草木が生い茂る環境となっているらしい。
必要な種を接種し先に進む。
木の雰囲気が変わってきて違う森の区画に踏み込んだのを実感する。
木がはるかに高くなり同時に木の途中に多く葉が茂ってその上に乗れる。
当然日光が遮られるので鬱蒼としてきた。
遠くでは猿の魔物がツタを使って飛び回っていた。
そして私の前には。
「ダッダッダッダッ!」
独特な鳴き声と共に私の前に躍りでるのはまるで木。
しかし木の洞からのぞく目からは強い意思を感じる。
あと足が根なのに踊っているように見えるし腕も枝として多数あるから木ではないね。
"観察"!
["自爆"アチャカリLv.53 比較:普通 危険行動:痛み分けの釘]
じばく……?