五十一A生目 重力
さて最悪の闇チェスなのが判明したところで。
私達はさらに加速し鳥神の側から離れ宇宙空間を進む。
多分今余裕で音速超えてる。
『ところで名前は?』
『シグナスッス!』
『シグナスさん、私達は結局何したら帰してもらえるんですかね……?』
そう私達は制限されてどんどん加速してどこかに向かっているのだ。
何もせず帰してもらえる気配はまったくない。
蒼竜がだいたい悪い。
『いやいや、ちょっと神格稼ぎッスよ。悪い話じゃないんで、ドンドン稼いで適当にとんずらこけば良いッス。どうせこっちはまだエースも出してないッスからねえ』
『エース?』
『朱竜様ッス。彼が出たら戦場は壊滅するから、他の神が稼げないって怒るんで控えッス。あ、他の4大も今回は控えているッスね』
『あー……』
すごく嫌なおぼえがよぎった。
朱竜さん……いま力を失っているんですけれど。
めっちゃ戦略的に攻めてきてるじゃん。
しかも友軍には知らされていないと。
それが士気向上に繋がり押しているのだからなんとといえない。
神々にとっては遊戯みたいだしなあ……
『サクッと敵の戦艦型神分神体に送り込むんで、内部からサクッと破壊しちゃって欲しいッス。そんなに強くないらしいから、ローズオーラさんたちを見るに全然平気ッスよ。あ、戦艦に正面から挑んだら危ないッスからね!』
軽い笑い声が響くけれど本当にやめてほしい。
あとあのすれ違った際にしっかり力を見られたのか。
私はシグナスをちゃんと"観察"出来なかったあたりしっかりとんでもない存在だろうなあ。
そしてそんな軽口も光景が見えてくれば話が変わる。
惑星たちの合間から見えてきた向こうの景色は大量の光線が飛び交う世界。
そして響く射撃の音。
……射撃の音?
「うおーっ、これは……今まで見たどの戦場よりも規模が大きい!」
「あれ、音がする? なんでだろう……」
『景色など周囲のものを感知して擬似的な感覚を再現しているッス』
「あ、もしかしなくてもシグナスさんの……」
『そうッス! 俺の力ッス!』
それはなかなか助かる。
その代わりあの爆音響く環境に突っ込むのかとげんなりしたが。
ジャグナーは苦虫噛み潰した顔をしているしアヅキは思考を放棄した顔している。
記憶から引っ張り出すにまさしく宇宙での艦隊戦のようにも見える。
遠くからだと巨大な戦艦らしい姿が見えるが撃ち合う片側は10くらい。
もう片側が7だ。
ただ攻撃の光線がたくさん飛び交っているし近づけば近づくほど星くずかと思っていたものたちは何らかのカタチをもって撃ち込んでいるのがわかる。
とりあえず目立つのは10側のうちの1つ。
こう……何? でっかい雄牛がドラムみたいなものをバンバン叩いている。
叩く度に敵の攻撃が跳ね飛ばされていた。
爆音の正体あのドラムかい……
いやドラムっぽいだけでドラムではないんだけど。
そして反対側の7のほうで目立つもの。
何……あれ? 一応それらしく知識で当てはめるなら珠を守るように竜が張り付いている。
あ……わかったかもしれない。
あれは……
「もしかしてあの目立つ竜みたいなの、ブラックホールの神?」
『そうッス! とはいえ分神ッスから、本体みたいに近づいたらそのまま重力の穴に放り込まれるなんてことはないッス!』
「もしそうだったら私達には対処方法なかったね……」
ブラックホールは殴れないだろうなあ。
多分重量の穴を抜けてワープかなんかしてすっとばされる。
5次元以上の力に逆らわないほうが良い。
私達はあっという間に近くへ迫った。
大戦争を起こしている合間に近づくとまあ凄まじい入り乱れ方している。
何千何万といった様々なカタチの神らしき姿が相手を斬り伏せ撃ち抜き宇宙空間なのに燃やしている。
「おいおい、これ大丈夫なのか!?」
『へーキッス! もしこの宙域でワープしたら探知されるッスから遠くから運んだんス。こんな微量サイズかつ自力航空による超エネルギー反応がなきゃ感知は無理ッス。この戦いで可視光に頼ってるやつはいないッスよ。実際はここ、真っ暗な宙域ッスからね?』
「おや? だが我々の目にはしっかり見えているが……」
『エッヘン、そこが俺の力、宙域探知ッス! さっき言ったッスよね、感覚にしっかりフィードバックさせてもらっているッス!』
「ほう、頼りになるな」
アヅキも少しずつ思考が戻ってきたらしい。
それにしてもそうか……結構大変な撃ち合いだなこれ。
互いにほとんどの光線は当たるか跳ね返されている。
あのドラム近くで見るとほんと凄い。
音の波みたいに見える結界が一瞬で敵の遠隔攻撃を跳ね返していくのだ。
この中を飛んでいくのだからむしろ心配は流れ弾だ。