五十A生目 宇宙
さて夜はまだ長い。
良い時間だし暗がり通りでも賑やかしに行こうかしら……ん?
「なんだ……引っ張られる……!?」
空間捕捉能力といえばいいのか。
私自身が空間に掴まれている気がする。
一瞬すわ敵かと思ったが敵意を感じない。
私を害そうとするならそれなりにどうこうしようと強制力を感じるだろうがただ捉えるだけでこちらをどうこうしようという感覚がない。
それになによりこの感覚……
神力?
『やっと見つけたッス! 捕捉にここまで時間かかるなんて、世界の裏側にでも行っていたんスかー?』
『だ、誰!?』
『お迎えッス! もう始まってるッスよ、今なら戦場に乗り込むだけで、美味しいところだけ貰えるッス!』
『なんの話!?』
突然脳内に響く声。
念話なのはすぐに分かったが何がなんなのやら。
『蒼竜様あたりから聞いてないッスか? まあとにかく、飛ばすッスよー!』
『ちょっ、蒼竜!?』
またあいつの連絡ミスかー!?
そう思っている間にワープ。
私は神の力に対抗出来なかったのであっさりワープしてしまった。
そして飛んできた先は……
「って宇宙!?」
まるでどこかもわからない……
そんな遠い宇宙だった。
さらにふたり追加でワープしてくる。
「な、なんだ!? ローズ!?」
「おや、主……夜空の中でも映える星のようですね」
「しかもその姿、神化してない!?」
「あれ!? ほんとうだっ」
ジャグナーは岩鎧たちが周囲に浮いている。
細身になったクマだが剛毛の毛皮はそのままだし熊手も強い気配のままだった。
そしてアヅキは青い羽根が増した。
鋼のごとき金属質なのに飛べるように軽い。
全体的な雰囲気もスタイリッシュになっていて烏天狗の雰囲気から少し未来的に。
私も気づいたら神力解放してある。
「って宇宙なのに平気だ!? 私達に何かが付与されている? あ、宇宙でも活動できるっていう状態なんだ……」
私達が慌てていたら神の力が付与されていて平気だった。
というかここどこ?
まるで知らない環境だ。
いつもの星もない。
月もなければそもそも私達がいた迷宮や表の星もない。
ここどこぉ?
「ちょ、ローズ、これ大丈夫なんだよな!?」
「大丈夫だとは思うんだけど私も何もわからない!?」
「なんだと!? お前が分からなきゃだれも分からねえよ!?」
「ジャグナー、主に当たるな。ほら、何かが近づいてきているぞ」
私達は宇宙空間にいきなり放り出されたもののなんだかゆるやか動いているらしい。
距離感はわからないが間違いなく宇宙の中に何かが見えた。
それは定期的に輝く衛生のような。
ただよく見るとそれはこちらに向かって手を降っている……?
「『おーい! 早くこっちに来るッス!』」
「さっきの声のやつ! その中にいるのか……?」
「『何言ってるッスかー? これが俺ッスよー!』」
「……は?」
それは近づくほどに巨大。
全景はまるで建造物のような鳥だが生体のような鳥腕も見える。
足ではないんだね……宇宙だからかな。
そして頭上近くまでくればその巨大さはまさしく戦艦。
1つの都市がまるまる浮かんでいるといっても過言ではない壮観さで。
それがまともに生きているのが不可思議だった。
いや神だから生物ではないんだろうけれど。
それに蒼竜や朱竜なんかを見た後では割とまともなサイズだ。
「デカい……」
「進むとどうなるんだ……?」
『それで、どこまでわかってるんスかー!?』
改めて念話に戻る。
いやあ大変だ……
明らかに大変なことが起こってるのだけはわかった。
「何も!? いきなりここにこさせられて、何!?」
『そこからッスかー!? じゃあ順番に説明するッス! 別のところから来ている神が小競り合いしかけてきたんで、撃退するッス。うちらは既に優勢っすよ。まあ向こうも単なる様子見スからね』
「……えっ、戦争!?」
いきなり不穏な単語が飛び出して頭痛くなってきた。
「んー? ああ、知的生命体が行う群れ対群れの争い? いや、そういうのじゃないッス」
「ん? 戦争ではないのか?」
「結局互いに神ッスからねえ。しかも今回の相手は、重力神と言われるタイプの……ほら……光とか吸い込む……」
「ブラックホール?」
「それッス! ブラックホールの神単体が自身を分けた尖兵を遊びで仕向けてきただけッスからね。まあやらなきゃ負けた星はブラックホールに飲まれるんスけど」
「結局命がけじゃん!?」
ふたりから「ぶ、ぶらっくほー……?」などと聞こえてくるが後で説明するので許してほしい。
負けたら死ぬってことだけ覚えていれば……
どうやら戦争というよりも『バトルしようぜ! ライフはおまえの星!』というノリなのがわかった……