四十九A生目 冥府
しんえんは基本的に真っ暗である。
本来夜の暗闇は夜行生物なら取り入れられる微量な光があるんだけれど……しんえんにそれは通じない。
本来呪いの濃密な世界に光すら通じないが問題はない。
[ダークビジョン 深い闇の中でも問題なく見えるようになる]
闇魔法の力で一気に周囲の視界が広げていく。
これは闇を見るための魔法。
ネガポジ反転ではないがそれに近いくらい明るい世界が見えていく。
隣に着地したグルシムも見えた。
グルシムはもともとこんな環境で生きている。
平気でこちらを視認しているようだ。
いやまあもちろん視認といっても目の機能を使っているわけじゃないだろうけれど。
「これが……異界の門? 意外となんというか……」
「ああ」
異界の門とされるここ。
少し向こう側にあるのは床一面の紋様。
魔法じゃないしなんか少し浮いているなあ。
完全に知らないジャンルのものだ。
もっと原始的なものに見える。
長年流れ込んだ水が生み出した軌跡のような。
綺麗な整った紋様ではなくそこにあるという強大な存在感。
やがてさらに力が強まってくる。
「これは、来るね!」
私はフルで魔法を展開し自身とグルシムにバフをかけていく。
グルシムは攻撃が当たらないから防御系より攻撃系重視。
やがて門が胎動し赤く輝いて……
「「グオオオオーーッ!!」」
大量の叫び声と共にナニカたちがやってきた。
その姿はまるでまともな生物ではなかった。
魔物たちってなんやかんやかわいらしいと思えるのだが……
まさしく違う世界から来たようなおぞましい造形たち。
血をしたたらせ肉が雑にもりあがり皮膚がはられる。
最終的に人型になるがそれは足が2本から4本、腕が2本から3本生えているシルエットがそうみえるだけ。
体が肉団子のようなやつや鎧を着込んでいるかのような鋼のごとき体と骨組みのような頭など。
鬼と称されるにふさわしい見るだけで正気を奪うかのような存在が蠢いていた。
さらに真っ先にこちらへためらいもなく走り込んできて……
「爆発!」
「朽ちろ」
門を中心に複数の魔法属性爆発。
そして緑の風が吹きすさぶ。
爆発は当然敵を粉々に吹き飛ばし……緑の風に煽られた敵はその体を保てなくなりまるでいきなり数千年たったかのようにボロボロに崩れる。
まぁ出てくるって聞いていて罠仕掛けないわけないよね。
第一陣はいまので掃討できた。
彼らは死にたがっているので防御もされず素直にほろぶ。
そしてかわりに不可視ながらそこにあるものが視えた。
色とりどりの淡い存在。
私はスキルがあるのでわかった……あれは魂だ。
しかしおっきいなあ。
こっちの世界の魂とは比較にならない。
なるほど魂単体で成り立っているのならば精神体と言われる所以もわかる。
「あー どこかへ消えていく……!」
「向こうへ門の、帰る」
どうやら精神体になれば勝手に帰っていってくれるらしい。
だが入れ替わりにやってくるのはまた醜悪な肉をもつ化け物たち。
何度だって復活してくるわけか。
「来るな、絶え間なく」
「ええ、結構ありそうなのかあ! 気合入れないとな……弱くても数が多いのは厄介だなあ」
私は再度構える。
グルシムは変わらず。
自然体だ。
どんどんと湧いてくる鬼達はどうやら一掃しているだけでは効率悪そう。
さあて……やるか。
私とグルシムは迫りくる鬼に向けて一気に駆け出した!
戦闘時間そのものはメチャクチャ長いわけではなかったと思う。
それでも周囲一体攻撃跡と散った肉片で埋まっていた。
何百倒したことやら。
「あいつらああ見えて、すごい射撃してきたね……」
「よくある。飽和だ」
「飽和射撃でこっちの陣地を破壊する動きが前提だから、陣地を組まずに倒すメンバーが基本なのね……めちゃくちゃだ」
かれらは苦しみから理性を失い生体相手に無茶苦茶射撃してくる。
倒すのに苦労はしなかったが射線を切るのが面倒だった。
とにかく攻められるので同士討ちもしょっちゅう。
ただそれでわかったのだが彼らの攻撃が同士討ちすると回復する。
こちらに当たると痛いのに!
「ふぅ、一息ついたし……帰ろうか」
グルシムが頷いて私が魔法を発動させるとあたりが揺らめいて肉片が消えていく。
この呪われた肉片たちはいい素材になりそうなのだ。
だから回収した。
そして私達の姿もそこから消える。
転移したからだ。
1度わかれば帰るのは楽だね。
「この程度な俺は、ではな」
「いやあ、グルシムのお願いなら聞くよ。またねー」
グルシムは、今日はありがとう、俺程度の相手にわざわざ付き合ってくれてありがたかったよ今度お礼するね。とのこと。
あの言い回し下手がなければなあ……




