二百八生目 人街
会議は色々と話し合いのちのちまた集まって報告し合うために一旦解散したが私の心に残っていた一番のことは"影の衣"についてだった。
"観察"を妨害するスキル、それならあの人も……
というわけで久々に空魔法"ファストトラベル"!
飛んだ先は……
「うん? お前さんか! 何か最近材料が送られてこんし、完成品取りにも来ないしどうなっているんじゃ」
「お久しぶりです、まあそこらへんはおいおい……」
九尾家だった。
九尾に対して"観察"!
……うんやはり伏せられた情報しかない物がログに表示された。
九尾にあった事を説明する。
それにしても九尾の方は少し会わないうちに若返っているような気がする。
研究へ打ち込みすぎなんじゃあないかな。
いつものようにかくかくしかじかと。
「なるほど……お前さん、不幸を寄せ付ける体質か何かかの?」
「そんな能力はないから!」
「それはともかくじゃ。確かに今のままでは連絡すらままならんのう……」
九尾が狐の姿で器用にお茶をすする。
9つある尾がうねうねとゆらぐ。
何となくわかってきたがあれは思考を働かせているときの癖なのだろう。
「……まあそこらへんは追々考えるとして、じゃ。少なくとも今回は大して協力はできんぞ。兵器や城壁のようなものは開発専門外じゃからの」
「うん、まあそこはそんな気がしていたから大丈夫ですけれど……」
なんやかんや武器になりそうなものは作っていても、直接的に誰かを殺すことや守る事に特化したものは前見回した時も作られていなかった。
なので期待はしていなかったしそこが今回の目的ではない。
一連の出来事を伝えることと……
「その襲ってきた子なのですが、"観察"という能力を使っても効果が無かったんです。それと"無敵"という能力も」
「ふむ?」
"観察"と"無敵"について説明した。
九尾も心当たりがあるのか色々とすんなり理解できている様子だった。
「――それで、今度襲ってきても抑えられるようになんとか突破できるようにしたいんです。博士も心当たりがあるのでは?」
「ふむ……心当たりも何も、"影の衣"じゃろ。超有名な能力じゃぞ。しらんのか!」
「す、すいません、不勉強で……」
なぜかキレられた。
理不尽である。
「それにしても、魔物なんじゃから食い殺してやれば良かろうに」
「やる気もないしそれやったら討伐しに何人も送られそうなんですが……」
「まあそうじゃろうな」
なぜ提案したんだそれは。
「まあ良いわい。大ベストセラー、『怪盗二十衣装』は人間界のものじゃしな」
「うん……? ところで……その作品ってどのぐらい前に流行ったものですか?」
「たった30年か40年ほど前じゃろ」
ユウレンも知らないわけだ……!
カムラさんはアンデットだから見た目では測れないがそこそこ古いものでも読んでそうなイメージがある。
九尾に至ってはむしろ新しいものみたいな感覚だろう。
正確には知らないが明らかにお年寄りだものな……
「そ、それで……博士も?」
「まあワシもあの頃に影響されて取って、今はこうやって隠れているのに便利じゃの。実際に来たことはないが、害意ある人に名前を看破されたらマズいからのう」
九尾は火災事故にみせかけた暗殺をされかけてこの迷宮まで逃げ延び仲間と共に小さい魔物たちの街を作り上げた。
今でも警戒しているわけだ。
そういえばこの屋敷が石造りなの、火災対策かな……?
「なので対策は知ってはいる……が、お前さんその能力系統は持っていないじゃろ。あれば通っているはずじゃしの」
「あ、はい。その通りです」
「まあ、凡人ならそこで諦めるところじゃな」
さらっと諦めろ宣言された。
九尾にとって私はほんの一般にすぎないだろうしなぁ……
「まあ、ワシは天才じゃからなんとかしてしまうがな」
「本当ですか!?」
ただの前フリだった。
やや馬鹿にされている気がするうえ悪い笑みを浮かべているが乗らないわけにはいかない。
「まあ妻が生前に考案したものの中にあったはずだわい。作るのは問題なかろう」
「全部覚えているんですか?」
「いんや? 言われれば思い出せる程度でしか覚えてないの」
それってようはだいたい覚えているのでは。
私も片付けを手伝った際に書類の山を見たことあるが名を把握するだけでも困難なほどにあったし私が触っていない範囲にもたくさんあった。
天才を自称するだけある。
ついで、というわけで困ったことをあれこれ並べ立てる。
正直何もかも困っている。
食料に水それに敵侵入対策に外と交流するにしても資金や特産がない。
回復や裏方の存在や私が欠けるだけで停滞するシステムなど話せば話すほど悲しくなるほどに欠陥だらけな部分を語った。
話して解決するとは思っていないが長々と話す私の言葉を九尾は聞き続け最後にひとこと。
「人間界の街を探れば良いじゃろ」
「えっ、ニンゲンの!?」
意外な答えが帰ってきた。
「そこらへん、なんやかんやとうまくやっているのが人間界の街じゃからの。ただまあ魔物が入るには、ひと工夫必要じゃがの。そこで得られるモノひとつひとつがお前さんたちの住んでいる環境とは文化レベルが段違いじゃからな」
「そ、それはこの街でも……」
「まあ、参考にはなるじゃろうな。ただこの街は閉鎖的で自己完結しておりなおかつみなちいさい。つまりあまり外に持ち出されると生活環境的にも困るし、ワシも見つかるリスクが高まるからの。そこは勘弁してもらおう」
もっともな話だった。
現状でも甘え過ぎなくらいでこれ以上は一線を越えるだろう。
だからこそのニンゲンの街か……
考えなかったわけではないが……果たしてやれるのだろうか。