四十五A生目 犬用
ナブシウ。
それは全身が恐ろしく硬い黒の毛並みを持つ犬。
色々装飾はあるけれど総じて雰囲気はそんな感じの神だ。
「ん? 何か用か? お前は普段あまり来ないだろう」
「今日は1日フリーなんだ。だから散歩していたら、前を通りがかったところ」
「休暇か。ならば我が神の偉業をたたえる行為を手伝っていけ」
「どういうこと……?」
他者が休みだって言ってるのにもしや仕事押し付けようとしている?
ナブシウに連れられて神殿の奥へ向かう。
本来のナブシウはとんでもない鈍足で運べないほど重いが分神体なので歩くくらいの速度なら出る。
無駄に広いがナブシウ用に各地へすぐ移動できるショートカットのような隠し道がある。
そこを通りながらナブシウは話を続けた。
「私が最近、錬金術を伝授しているのは知っているな? それで私はあらゆる我が神の叡智を全身に記憶してあるため、なんの齟齬もなく我が神の素晴らしき一端にふれさせられる」
話とか体感的に多分ナブシウの旧神に触れたら一般人は発狂しそうなんだよなあ……
「完璧に記憶しているんだ」
「当然。というよりも、我が神の力で創られた我が身体の内にすべて秘されている。だが最近、とある問題が発覚した。新たな迷宮のせいなのだが……」
「あー……もしかして。未知の鉱物?」
「そうだ。我が神が記したものは、当時の物。当然、我が神ならばその場で新たな錬成を見いだせるが、私が行うのはあくまで我が神の御業における再現。万能とは程遠いゆえ、新たに考慮しなくては」
ナブシウが悩んでいたのは鋼鉄の迷宮で新たに出土する合金たちの扱いだった。
錬金術はその性質ゆえに貴金属も多く扱う。
新しいものに適応できねば片手間落ちになってしまう。
まあこの世界では錬金術そのものが既に過去の技術に埋もれてしまっているのだが……
到着した部屋には乱雑に実験器具とバラされた部品たちが積まれていた。
なるほどこれの整理と解析は骨が折れそうだ。
私も金属の性質は知っているがそれが錬金術的にどう作用するかは検討もつかない。
「では、始めるぞ」
錬金術の編纂作業をなんとか途中まで終わらせた。
というかやってる途中でナブシウが凄まじい教え方をしているのが判明した。
教本ゼロなのだ。
彼の旧神賛美というノイズまじりの口頭説明を一生聞かされるのだ。
そりゃクオーツが苦戦するよ。
大変だろうよ……
なので書類にまとめた。
イバラフル稼働である。
私がわからん話を私がまとめるの何!?
まあやっている間になんとなくは理解させられる。
書物にまとめるってだいじだよね……
ナブシウの雑なところが消え去るのが1番大きい。
「ふむ、とりあえず今日はここまででいいか」
「だね……ナブシウって何か飲んだりするの?」
「この身体は飲食は嗜好品だが……我が神の心遣いにより、ほとんどのものは食せる」
「じゃあ、はいこれ」
私は"ストレージ"から雑に水差しを取り出す。
中身は果実水だ。
さっぱりするタイプの。
コップも用意し2つについで。
ついでから思った。
「……コップだと飲みにくいよね?」
「どうやらお前は、なかなか疲れているらしいな?」
「うん……」
平皿に移し替える。
あらためてふたり揃って飲みだした。
私自身が切り替えられるから今どっちでいいかって雑になるのよくない。
このままだとニンゲン相手に平皿に果実水を盛り付けだす。
うーん改めないとな。
「ふむ、まあまあだな」
「それはよかった」
こうして舌を伸ばして飲んでいると普通の獣のようにも見える。
しかしその実態ははるか昔からの小神。
凄まじいギャップだ。
そして私たちは飲み終わって片付ける。
なんというか一緒に茶というわけでもないが……
こんな単純なところでも心が通い合う気はした。
「意外とこういうのも好きなんだ?」
「我が神の偉大さを語るに粘った口では失礼に当たるからな。それと……あの砂漠ではあまりこういった果実の類はなかったのでな。まあ、私が求めなかったのもある」
「ナブシウの神さまはどんなものを食べ物をナブシウに?」
「ワン!ダフルグッドチャームゴッドフードお肉たっぷり無添加ミネラル配合小神用」
「なんて?」
「ワン!ダフルグッドチャームゴッドフードお肉たっぷり無添加ミネラル配合小神用だ、うまいぞ」
ドッグフード……いや言わないでおこう。
それにしても……魔物フードか。
作ってみようと考えたことがなかったけれどもしかしておいしいのかな?
ニンゲンならダメでも……みたいなのはあるよね。
うーんまたやりたいことが増えたなあ。
まあそれより真顔で言い切るナブシウが面白かったのはいい収穫だ。