四十二A生目 訓練
クオーツは教材を運んでいた。
たくさんの教材をバランス良く運ぶのに苦労していそうだ。
ただ足はなく浮いているので勢いさえついてれば安定だけはしているが。
私の方をちらりとみたけれど止まらない。
やっぱあれ停止すると崩れんじゃあ……
「おはようごさまいます、ローズオーラさま! どこかお出かけで?」
「うん、ちょっとまずは朝のルーティンで訓練しようかと。クオーツはこの教材で何を?」
私は空気を読んでクオーツのそばに寄って共に歩く。
「最近は、とにかく基礎学習を固めているんです。カムラ先生の元でとにかく多くを学んでいる段階で……やっぱり知識があるだけなのと、自分で学ぶのはだいぶ違いますね、考え方が広くなる、と言いましょうか……? 前では持てなかった視点を持てるのが、面白いですね」
「それは良かったね。私の知識がインプットされてはいるみたいだけれど、やっぱり他人の記憶だしね」
「そうですねぇー、最近は特にそれを実感しています。先生たちから教わることって、もちろん知識もなんですけれど、なんというか、知らない世界の歩き方というか……そう、まるで心の支えとか、引っ張り上げてくれるようなことを教えてくれるんですよね。わたくしは、前世では学び舎なんていけませんでしたから……」
クオーツは前世持ちだ。
たまたまなんだけれど。
たまたまだと言ってくれ。
しかし向こうでは子どもの時に不幸な死と生い立ちを経験している。
こちらでの生は短いがすでに前世より活躍中のようだ。
「どんどん学んでいってね。錬金術も大変だろうけれど」
「そうなんですよねぇ、錬金術はかなり難しくて……この身体になって、どのような記憶も後から引き出せるようになったし、すごくあれこれ理解出来るように化けたんですけれど、それを含めてもわたくし自体の理解力が足りていないらしく。だかこその基礎学習ですね」
「そうなんだ……そんなに便利な状態なのにだめだなんて、やっぱり私が気軽に手をださなくてよかったなぁ」
「ああそういえば、ローズオーラさまって学び舎は行かれたことはあるのですか?」
クオーツは私とある程度知識を共有している。
なのに聞いてきたということは共有した中になかったからだろう。
「学び舎……かあ。どうなんだろう、結局私の前世ってよくわかってないからなぁ」
「それも不思議ですよね。前世の記憶をすっぱり落としているだなんて。だって今まで出会った前世持ちや転移者たちは、全員前世の記憶を保持していましたよね?」
「うーん」
言われてみるとたしかにそうだ。
というか文献に記されているものもみんな記憶は持っていた。
なんなんだろうか。
「ただ、魔物への転生例が今のところ、知らないからなあ」
「そうですよねえ。まあ、魔物に転生して人の世界に踏み込んだものが、『わたくしは魔物に転生して、人の世界に踏み込みましたわー!』って喧伝してまわり、記録を残すかと言われると……」
「残さないよねえ?」
考えてもらちがあかない。
あと明らかにクオーツが想像以上に頭良くなっている。
これが学習成果か……
実はこのたぐいの雑談は普段からしている。
互いに無知の部分にあるカードをきって情報交換しているというより既知の情報カードを見せ合って整理している感覚。
他愛のない雑談はそのあとも続きほどほどのところでわかれる。
私がその足で向かったのは冒険者用訓練場。
さーているかな……
「だあぁっ!」
「はあぁぁ!」
イタ吉の振りかぶった尾の刃が私の気合を込めた噛み光とかち合う。
すぐに光共鳴爆発が起こると判断して……
「あっ!?」
「おらっ!」
相手の光が消えた!?
いや消したんだ!
ギリギリ気づいたもののその先が読めなかった。
イタ吉は己の身軽さを活かして回るように私の牙光を避けて抜ける。
そのまま回転を活かして私自身を小さな光斬撃で狙ってきた。
「あぶなっ」
"防御"をなんとかあわせてふっ飛ばされるものの傷はない。
ってのこりふたりがいつの間にか詰めてきている!
「気配が探れない!」
「おんなじ存在だからなぁ!」
納得できるけれど納得できないことを言われ2体の小イタ吉に襲われ何十連撃を喰らう。
"防御"の光が割れてしまった!
「だっだぁ!」
「こなくそっ」
地面につく前にイバラで私自身を支え跳ね上げる。
迫るイタ吉の尾刃をそれで避けた後土魔法"アースレイン"それに地魔法"ラース•アース"。
砂利たちが雨のように降り注ぎ地面の土が剥がれてあたりに舞い散る。
「おせえ、おせえぞ!」
……ひりつく訓練中です。