四十A生目 朝日
村から旅立つ。
この時代感覚で言うそれは簡単な上京とはわけが違う。
連絡はごくたまにしか取れず二度と故郷の土を踏むことはないなんてザラ。
なぜなら移動手段も連絡手段もそんなに簡単ではないから。
もちろん一番危険なのは上京なりたてでそれは既に通過しているけれど。
それでも親の死に目に間に合うことはないという宣言そのものだ。
そしてそれらについていけないのは私だけなの何?
「親には?」
「既に」
「良く許可を出してくれたね」
「わたしだけなら……前のわたしならば、許してはくれなかったと思います」
「とはいえ前ならば、村から出ようとすら思っていなかっただろう?」「ですね。昔は、外の世界を知ろうとも思いませんでした。始まりは最悪でしたが、その後の出会いと広い世界は、わたしの心を動かしたんです」
ミアは立ち上がり背中に剣を這わす。
ツタが絡んでまた素直に収まった。
「冒険を!」
ミアが宣言した。
納得してうなずく村長。
おいてけぼりの私。
「いや待って!?」
「はい?」
「い、いいの!? 村に帰るんじゃあ……」
「もちろん帰ってきたじゃないですか! 帰ってきたあとに、また外に出るのは別です。わたしは、あなたに、ローズさんに憧れたんです。後を追わせてください」
真っ直ぐにミアが私を見てくる。
その時に初めてわかった気がした。
……ミアの中に1本の芯が通ったことを。
彼女は既に様々な苦悩をした先に得た覚悟。
これが私が活躍したことの責任を取る必要のあることだ。
だけれども。
「……きっと、私が止めろと言っても……」
「ええ、それだけは聞き入れられません」
ミアはここだけははにかんだ笑顔を見せた。
これがひとりの覚悟。
私がひとつの別れを考えている間にミアは人生の分岐路を決めていたらしい。
私が思う以上に彼女は成長していた。
もはや私の言うことすら必要ではないのだ。
その足2本で立てる。
それのどれほどの難しいことか。
「なんというか……うん、よかった、よかったよ」
私は胸がいっぱいになってそれだけを絞り出した。
ミアが良い笑顔だったので良し!
その後はいつものように。
正直心底驚いたけれどそれならそれで私もやることをやるだけだ。
その日はミアは家族水入らず私は村長宅に泊まる。
村長の歓待はありがたかったが正直つい先最近襲撃受けたばかりなので不安が勝り私の在庫を解放。
料理のストックは割と空魔法"ストレージ"にあるよ!
そのまんまだと時が経つので経年劣化しやすいタイプの……料理あたりはすべて改変してあるほうにほうりこんである。
そっちの時間は止まっている……わけではなく時間がゆっくり進むらしい。
正確な測定は難しいが理想通りならばおよそ1000万分の1秒単位で進む。
今なら時空魔法で似たような事できるんだけどね……
さてそれはともかく。
私は村の出口に立っていた。
ミアたちと旅立つためだ。
ミアは報酬を受取るためにまず最寄りの冒険者ギルドに行く。
そのあと村に帰ってから冬季までにひととおり片付けて村から出るそうだ。
ほんと昨日は驚いたよ……
「さようならー!」
「また来ますー!」
「「またねー!」」
こうしてまだ旅は続く。
私は昇る朝日を受けながらミアと共に歩んだ。
おはようごさまいます私です。
私だって次の指令をこなすまでに次の休日くらいある。
神を探したいがそんなにがんばっても引けるときと引けないときそれぞれある。
少しずつできているのが論文のほう。
後は書ききってしまうだけだ。
魔法のベースはこれで完璧というところまでホルヴィロスと共に詰められた。
が! これは今日手を出さない!
当たり前のように家にいるホルヴィロスと共に朝食をとって外に出る。
朝食は翠の大地で取れたお野菜を炒めたものと小間切れ肉と焼きたてのパン。
それに……
「うん、やっぱり美味しいよね! ミッカイモ! このぐらい噛みごたえがある方が良いよねえー」
ホルヴィロスが強靭な歯でザクザク食べているのはミッカイモふかし。
実はアノニマルースではミッカイモがかなり食べられている。
他の穀物より食べられているかも。
歯が全体的にギザギザしている者はミッカイモをそのまま食べる。
じゃがいもと違って毒性が薄くほとんどの魔物が食べられてそのままだと歯ごたえがある。
……ニンゲンからいえばギリたべれてギリ歯が負けない石。
肉食がしやすいそんな歯の魔物たちからすれば噛みごたえと飲み込みやすさが求められる。
草食系は逆にミッカイモを粉にして色々混ぜて焼き上げる。
トウモロコシ粉の生地みたいな仕上がりになるのだ。
そして予想通り食物繊維がやたら多いので炭水化物とカロリー含有量の割にどの魔物にもお食べやすいのだ。