三十九A生目 覚悟
ミアの村についた。
もう私は2足でニンゲン擬態してある。
ミアも歩いてきた風の顔をしてもらっていた。
「村のみんなー! 帰ったよー!」
畑が近づいたらミアが叫んで駆けていく。
これはよくやることらしい。
よそ者か村の者かを素早く知らせる……ただし前の時はそれよりも早く攻撃されたのだが。
だがいつもの動作をするというのは村に安心感をもたらす。
何度も叫んでいるとやがて畑から顔を出すひとり。
「おおっ、本当にミアか!」
「おいちゃん、わたしだよ! 先に何人か帰ったでしょ?」
「ああ、聞いていたが、本当に無事来るとは……! おかえり」
「ただいま!」
うんうんよきかなよきかな。
まあ畑の人は土だらけだから畑から出ないしミアも近づかないせいで叫び合ってる距離なのを除けば。
「ほいで、そっちのお方は?」
「あ、こちらわたしたちの英傑です。ローズオーラさんです」
「もしかして、あの噂の!」
どうやら先に帰った面々から話は聞いていたらしい。
知らないニンゲンならともかく知ってるミアに英傑と呼ばれるのはなんとなくうずうずするが。
「こんにちは、ローズです」
「ひゃー、べっぴんさんだなあ! こんな田舎にようこそ! おいがここの村長さぁ」
村長さんだった!
片田舎において村人と村長はぶっちゃけ家族関係のようなものらしい。
つまり1つの群れだ。
直接的な血のつながりがあろうがなかろうが毎朝顔を見せ合い好みや弱みまで把握し合う仲だ。
ミアと村長もそんな仲だ。
あと容姿を褒められるのはちょっとうれしい。
冒険者やってると容姿の判定が強そうかとか汚れてないかとかになるんだよね……
あと私が魔物だからというより獣系毛皮の顔つきなので他のニンゲンたちにとって判断が難しくなりがちだ。
これは他のそういうタイプのニンゲンたちも同じ悩みを持っていたのをたまに聞く。
いや……私の交友関係が冒険者に偏ってるせいかも。
ともかく村では歓迎された。
私がというよりはミアが。
途中ミアはワッショイと運ばれていったが大丈夫かな?
私はどちらかといえば村長一家にお世話になった。
村長はまだ見た目は若く子どももそれなりの歳。
やはり話を聞くに受け継いだばかりだったらしい。
「それはさぞかし、心労が凄まじかったでしょう」
「おいの心労よか、みんなの命が心配だったなぁ。なにせ、こんな大事件、そうそう解決できんのが普通だからなあ。そこに来たるは英傑の皆様! かぁ〜っ! これほど痛快な救出劇はない!」
「ど、どうも……?」
「「わああぁっ!!」」
「ありがとうー!」
「うちの子が帰ってこれたよ!」
「野菜食べていきんさい!」
村長の掛け声で私もワッショイワッショイされた。
公の場で話すことは何度もあるけれどこうやってストレートに好意をぶつけられるとなんともモジモジしてしまう。
慣れたはずなのに慣れることはなさそう。
なんとか解放してもらえたのは完全に日が沈み祝いの席が少ししてからだった。
楽しい時間だが私とミアは村長に伝えることがある。
とはいえここは前と同じだが。
「ははぁ……そんな騒動になっていたとは。誰が領主でも、こんな事件を起こすのを許さない者ならば、安心はできますよ」
「ええ。そこはもちろん」
「わたしたちが決めるわけではないけれど、みんながそれを許さない体制にすると話していました」
権力の相互監視状態というやつだ。
詳しいことは現地の民が決めていく。
私の出る幕ではない。
「なるほどなぁ……それにしても、ミア、お前、良くなったなあ。なんというか、自信がついたよな?」
「そ、そうかな?」
「ああ、前が自信なかったというわけじゃないが……今は、1本芯を得て立っている、そんなふうに見えるよ」
私達は話し合うために座っているが比喩表現のほうだ。
ミアの前を知らないためなんとも言えないが彼女の中で変化があったように村長たちからは見えたらしい。
良いことだ。
「はい……それだったら、間違いなく今回の出来事と、ローズさんのおかげです。わたし、少しだけ戦えるようになったんですよ」
「おおっ、そりゃすごい! その剣みたいなものは、預かりものじゃなかったんだな!」
「はい。ある意味ローズさんから預けられ……託されたものです。わたしは、この剣に恥じぬように生きたいと思います」
「ということは、やはりか?」
「はい」
えっ。ふたりの間で会話が成立しちゃってなんなのかがわからないまま進んでる。
私は何もわからない。
ミアは背中から外してあった剣を改めて手に取る。
そして祈るように目を閉じ先を下にした。
「わたしは、寒枯れの季節が訪れるとともに、この村から旅立ちます」
えっ!?