三十八A生目 夕日
私とミア……だけではない。
冒険者達は各々ギルドからの強制的な仕事を引き受けていた。
それは説明のお仕事。
今回の件の後始末だ。
正直今回の出来事は影響範囲がメチャクチャ広い。
周辺領にも話をつけいかなくてはならないし全国政府に対して話をつけにいかなくては。
そして当然自領の全市町村に通達。
幸いにして市は領都だけだ。
小さな町かさらに小さな農村に話をつけるだけなら腕っぷしで生きてきた冒険者にも務まる。
彼らは……というか私もだが冒険者として説明義務を果たすため資料片手に領内に散らばったのだ。
私達も既にこの村へ来る前に町1つ村2つ来ていた。
「それは……足止めするのも違うでしょうな。竜馬は使わないので?」
「え、ええ、なんとかなりますから」
「それは健脚ですなあ」
村長とそんな話をして笑い合う。
ただ私とミアは若干ヒクついていないか心配だが。
村長は純粋に1週間くらいかけて旅程組んできていると思っているのだろう。
竜馬は他の大陸によくいるカルクックという走る鳥の役割を果たすドラゴンだ。
ちなみに馬という動物もここの大陸にいないため私の脳内造語だ。
ニンゲンに懐いて乗せてもらえたり車を引くという点は変わりない。
私達は村長たちに見送られながら村から離れる。
「良かったね、あの村が元気になって……」
「ええ、本当に……わたしの村じゃないけれど、気にかかっていたので」
完全に誰も見えなくなってから……
早速楽をすることにした。
「じゃあ、やろうか」
「最初はすごく驚いたんですけどね……!」
私は4足に戻り肉体を再構築していく。
目指すはロゼハリーのような肉体。
あの状態は普段の私と比較すらば何回りも大きい。
出来上がった身体にとげなしイバラで馬のような鞍とあぶみを作っていく。
「わあ……相変わらず、まるで別の魔物……! 顔とか、すごいですもんね……わたしをひと口で食べてしまいそう……」
「ニンゲンを食べたことはないなあ」
そんな軽口はコレかわ何回目かの証拠。
ちなみに1回目はちゃんとビビられた。
脳と肉体が別の反応をしたらしく大変謝られたが。
とはいえ私でも見た目が恐ろしくなるのはなんとなくわかる。
まあ大きさが変わるからね。
こうすることでミアが乗れる。
ミアは何度目かで多少慣れた手付きになり登っていく。
「では、失礼して……ご迷惑をおかけします!」
「いんや、何度もいうけど、これって乗る方が大変だからさ、一蓮托生だよ」
「最初の時は、ちょっとおしりが破けるかとおもいましたね……」
ミアが思い出すとおり最初はミアが撃沈していた。
私より騎乗者のほうがずっと大変なのだ。
ミアは騎乗能力もなければ騎乗経験もないからね。
ミアがしっかりのったのを"鷹目"で見てからとげなしイバラでしっかりシートベルト。
ミアくらい強くなればここらでふっとんでも死にはしないだろうけれど痛いしね。
「じゃあ、出発!」
「ゆっくりから始めてくださいよ……!」
言われた通り私はゆっくり歩み出す。
それから順に加速して駆け出す。
この時点で20km/毎時ぐらいの速度。
「じゃあ、いくよーっ」
そして背中の重みを感じながら脚に力を込めだす。
私の周囲に速度による空気抵抗を受けるための自然な光が生まれだして高速移動。
さらに速度を上げていく。
「うわっ、相変わらず景色が一瞬で流れていく……!」
「負荷の方は大丈夫?」
「なんとか平気です!」
いきなり加速を足すと車で急加速や急停止したときみたいに乗っている者にかなりの負担がかかる。
ああならないように速度に段階をつけていた。
加速さえ途切れないようにしていればあっという間に道の向こう側へ。
当たり前だが街道は通らない。
獣道を抜けて魔物たちを無視しすぐに荒れ地を抜けていく。
やがて木々が多くなれば次の村が近づいているのがわかる。
「きっとあそこです! あそこに、わたしの村があります!」
……最後の目的地はミアの村だ。
「わかった、緩めるよ」
「ええ……あっという間、でしたね。……ローズさんは忙しい方だろうから、ゆっくりこの時を味わいたかったんですけれど。でも、太陽はそれとは関係ないですものね」
「もう沈んできたね……ねぇ、私と手紙送るよ」
「うん、絶対返しますから」
「いつかみんなで集まろう」
私達は何でも無い会話を繰り返していく。
けれども希少な会話。
ふたりで過ごせる時はきっとあとわずか。
ミアは早く元気な顔を店に行かねばならないし。
私は次の指令をこなして救えるものを救わねばならない。
きっと私と違いミアはかなり重い……一時の別れ。
夕日が今世界を照らし終える。