三十七A生目 村長
雑草よりずっといいが普通の芋のほうが美味しいミッカイモはともかく。
今現在色とりどりの野菜植物たちが所狭しと生えている。
そうこの枯れた土地に!
「こんなにもたくさんもう生えているだなんて……!」
「ほっほ、まだ本来の規模には届いておらんが、おかげさまで土地に根がつくようになったからの、少しずつ戻しておるのだ、みんなでな」
「え、これで本来の規模じゃないんですか!?」
「村の近くだけだ、本来はずっと、畑が続いておった。その景色は、緑の潮海と呼ばれておるほどよ」
「あ、わかります、緑の潮海! 私の村はもっと海際の崖から遠いのでそう呼ばれませんが、海に面した農村の美しい陸の海、畑から草が並んだ景色ですよね!」
「あ、いいなあ。今の聞いたら、すごく見たくなってきた」
なるほどこの平野に見える部分全部が畑として機能していたならば。
想像してみる。
一面のうねる畑の中に私が歩いていくその光景を。
いいなあ……ぜひその光景を実際に見たい!
やはりここの土地には復活きてもらわないと。
「とくに、ローズさんが工夫していた畑は、とても健やかに育っておりますよ。あれはもはや別物ですなあ」
「というと?」
「手間がかからないというか……極端に雑草が生えなかったり、土がちょうどよくなったり……ああそうだ、土が良く肥えてもおりましたな。この他の土地では信じられないほどです」
「そうか……龍脈がなくとも最悪代用ができるのかな……」
「品質も1番ですのう」
詳細は不明なのでまだ検証がいる。
そこは私以外に任せるとして。
なにせアノニマルースからも派遣されている魔物いるし。
私達は村人たちに歓迎されながら村長家に案内される。
前来たときよりみんないくらか身体に肉が戻ったようだ。
悲惨さがない。
村長は元々おじいさんだから差異があんまりわからなかったが確かに顔の雰囲気は明るかった。
中に入れば村長の奥さんが出迎えてくれる。
というか奥さんが実権を握っている風も有るからむしろ奥さんが村長なんじゃなかろうか。
いや相談役? 村長より上だな……
「本当に村が助かりまして……取れほどお礼を告げれば良いか」
「冒険者としての義務をはたしただけだすよ。おっと……そうだ、ついでの報告が、ミアからあります」
「はい?」
「あ、わたしですか? わかりました……えっと、実はここに来たのは領主一族が冒険者たちにより、捕縛されたからです」
「なんと!? い、一体どうなって!?」
「まず現領主が少年で、傀儡政権になっているところから説明します」
ここはだいじな話だからと口頭だけじゃなく資料を交えた本格的な説明になった。
村長がわからないところを奥さんが修正いれつつ進む。
そして最初は混乱から暗かった顔が徐々に明るくなっていく。
私が最後に今後の展望も伝えると互いにお茶を飲んでほっとひと息。
「これで、少しは村が楽になるとよいのですが……そもそも、そんな風になってしまっているとは、まるで知りませんでした。恥ずかしながら、こんな片田舎では情報が伝わる方が難しく……」
「ええ、わかります。そのために私達が説明に来ましたからね」
「ですね。まだ詳しいこの先は不明ですが、少なくとも意味の分からないことは起こらないかと。ただ……龍脈は別ですが、申し訳ありません」
「いえいえ、既にこれほどの事が起こって助かっているのです、感謝すれど非難することはありませぬ。そもそも大地の力など、我々には想像もつかないこと……大自然の思惑は、小市民がどうこうできるものでもありますまい」
まあ村長さんの言う通りではある。
本来一介の冒険者が介入できる話ではない。
まあ私は介入する気まんまんだが……
「私達の方でもさらに手を尽くしてみます。ここは重要な食料庫です、このまま枯れさせるだなんて絶対にさせませんから」
「ありがたい……本当に。村の者たちがこれで食っていけなくなったら、街へ行かせるしかなくなる所でした」
村長が感極まった声で言う。
若い人達が村からみんないなくなればその先に待つのは村の終わり。
農村としてまともに経営出来なきゃそうなる。
ここは海が近いものの思ったより潮臭さはなく同時に海へ降りる海岸みたいなのが見当たらない。
魚介は期待できない土地なのだ。
だからこそ農村が潰れるような事態は全体としても避けたいし私視点でもみんなには食いつないでもらいたい。
これは動物の基礎欲求みたいなものだが……助けたところが苦しむのはみたくないよね。
「さて、細い話の詰めはこんな感じでよろしかったでしょうか?」
「おお、もう行かれるので? 泊まって行かれては?」
「そうしたいのはやまやまなんですが……わたしたち、まだ担当の村があるんですよ」
実は仕事なのだ。