三十六A生目 収穫
楽しい宴会と祭り。
しかしその一方で影もある。
私はちょっと暗がりの路地に入り込みだれもいなくなったここで口を開く。
「市民に噂を流されている。ミルーカ元王子が勘当されるまでの流れは本来極一部しかしらないはずなのに、誰かが意図的に広めている」
「勢力を調査します」
「あとは、龍脈関係だね。戻すために、変更したポイントを見つけたい。そのための妨害も見つけられそうなら」
「お安い御用で」
気配が消える。
虚空に向かって話していたかのような錯覚に陥るがちゃんとそこにいた。
アノニマルースの影。
まだ龍脈の経路が変えられた話も決着がついてない。
なんとかしないと領地が枯れたままだ。
あとこの翠の大地に依頼してきた神もさがして……
最後は世界中を襲撃した人形たちの主を探し出す。
今も世界の各地で戦闘が絶えない。
このままでは大きく疲弊するだろう。
全部逃すつもりはない。
この大陸にまだまだ危ないところがあれば解決して同時に冒険だ。
「ローズさん? 何やっていたんですか?」
ミアが私を見つけて表通りからこちらの方を見てくる。
それに対して私は明るくつとめた顔で返事した。
「いや、熱気をさましていただけだよ」
「まだまだ盛り上がるんで、きてくださいよ!」
「うん、もちろん!」
私はミアについて酒場に戻る。
この光景を本来は領主たちが作らねばならなかった。
この国はまだ大きな闇が渦巻いている。
今は信頼できるところに預けてあるクライブくんはどうなるのかも含めて……
まだ続いていく。
ミアと私は森を歩く。
ここは領都から大きく離れた場所。
「ここらへんでしたよね、わたしがローズさんに助けられたところって」
ミアは軽く足取る。
背中には鞘のない両手剣のフラワー。
フラワーが身体を邪魔しないように背中にツルを伸ばしつつ刃が細かい花に覆われていて見た目と違い鞘のように切れない。
しかも手に取った瞬間全部解除されて持ち上げられるそうだ。
私が作ったけれどそうなれたのはミアと武器の信頼関係に違いない。
ようは子をうみだしたのは自分だが子を育てたのはミアだ。
「うん、この森で出会ったんだね。私はここにきてまもなくて、右も左もわからなかった頃……」
「改めて聞くと、凄いですよね……神様に飛ばされてきたんですっけ? 当時はまるで知りもしなかったんですが……まさしく、運命だったんですね」
「偶然ってこわいものだね……たまたまだけれど、助けられて良かった」
私達は他愛ないような会話をして歩いていく。
どんどん土地が枯れていきさもしい場所になってきた。
本来こんなふうにならないが龍脈が通ってないから仕方ない。
毛細血管みたいなもので皮膚の一部の血が閉じられているというわけだ。
数時間ならともかく既に年単位での変化だったはず。
当然その地は腐る。
幸いなことにあくまでそれは有機生命体の話。
星という巨大な土塊は腐ることに対してマイナスの効果はそこまでない。
たださらに腐るエネルギーすら枯れることによって急激な土地の貧窮化するわけで。
ほうっておけばそのうち不毛の大地と化す。
その前にまた血を……龍脈を流し込まねばならない。
「村がみえてきましたよ!」
「久々な気がするなあ……そんなに時がたっていないのに」
私とミアが歩いてやってきたのはたまたま前たちよったあの村だ。
悪徳領主をどうにかした報告しにきたのだった。
私とミアは村長たちと会った。
村はもはや昔と様変わりしており想像以上に発展していた。
もちろん村としてだが。
魔物よけは機能している。
魔物避け像の方は私が急ごしらえしたあのときと違ってずいぶんと祭られていた。
「なんだかすごく立派な祭壇になっていませんか!?」
「ああ、ありがたいことに、あれから畑を狙うヤツはネズミ1匹現れんのですのう。こんなに強力だとは、誰も思わなかった」
「それはよかった。即席でも、そのあと愛されれば効果はしっかり出るものですね」
「最初の作りがいいんですよ〜!」
「それに畑の方も……」
畑の様子は明らかに改善している。
最初に植えたのは数日で実がとれるアノニマルースから持ち込んだ特殊な実であるミッカイモだ。
ちなみに学者たちが複雑な名前をつけていたがみんなミッカイモとしか呼んでない。
ミッカイモは過酷な環境でもすぐに芋がなるものの味は常食に向かないかな……ぐらい。
あと連作障害が起こるので連続で植えられないのが弱点。
当然ミッカイモの収穫はとっくに終わっていて倉庫にはあまりが入っていた。
植物をはいで食べていた村のものたちがミッカイモ以外の食材が出来たら完全に備蓄に回す食材……
そういうことだ。
カロリーに優れてるのと調理法にこだわれば……というのはあるんだけどね。