三十四A生目 魔物
まあ言ってしまえば私にイタズラをしかける程度に気心がしれた仲なのだ。
直接しかけた奴は許さんが。
もはやこうなればもったいぶるのも違うだろう。
ミアやバンそれに3人ズもこちらに暖かい視線を向けている。
まあコレは酒の勢いで行けということだろうか。
そこまで緊張はしていないんだけれど。
「じゃあ、とりあえず話すよ……私は、気づいている通り……魔物だよ」
私が語りだすと一気に静まりかえっている。
そこからは手っ取り早く私自身について語った。
まあ簡単に敵ではないとわかって貰えればいいという内容だ。
どう考えても場がウズウズしていた。
さっさと話を終えよう。
「――というわけで、詳しいことは冒険者ギルドに問い合わせればいいからね! 終わり!」
「ほほー! そんで、アノニマルースとかいう街、行けるのか!?」
「もちろん、じっくり見てもらいたいよ」
「そりゃあいい!」
「うおおおぉ!! 魔物だろうとニンゲンだろうと、あの領主一族みてーなやつらじゃないなら問題ねえぜ!!」
「めでてぇ! 飲むぞー!」
「「カンパーイ!!」」
一気に騒然さが戻ってきた。
酒飲みたいだけじゃん! となるけれど私はさっさと舞台からおりる。
ミアたちもこちらに笑いかけながら喉を潤していた。
さて遠くの席でやたら驚いている者のところにそっと近づいていく。
そこは表の席とは違い喧騒が少し遠い。
隔絶されているようなそれでもどこか空間を共有しているような。
布1枚隔てたところにいるひとりがいた。
「ミルーカさん」
「……ローズさん」
元王族のミルーカ。
その彼が座っていた。
きっとたくさんの事を聞きたいのだろうが順に整理しようとしている……そんなにおいがした。
だが最初に彼がしたのは深い礼だった。
「まずは、惜しみのない感謝を。あなたたち冒険者のおかげで、ぼくは……我々はやっと救われた」
「まだ闇の一端とはいえ、相手たちを捕まえられたのは運が良かったです。昨日さいごまで暴れていた白髪の男、彼が1番邪悪な気配を放っている割に、いかにも戦えない感じでいかにも計画とか悪巧みがうまそうでしたからね」
「あの男はたしか、この傀儡計画自体を担っていた奴との調べがついていたね。きっと王族毒殺事件に関しても、全部ではないとはいえ、一端を担っているのは間違いない」
「ミルーカさんにとっての怨敵……ですね」
「ああ……直接手をくだせないのが残念だ」
ミルーカを王族からひきずりおろしたひとり。
命の生死が関わった話なのでおいそれと復讐の心を咎める気にもならない。
そもそも私達もしっかり被害食らったし。
「っとそのこともだが……先程のことはなんなのだ!? 貴殿が魔物で、それなのに冒険者をやっている……など、一体どういうことなのだ、まるでわからない話をしていたじゃないか」
「ああ、そういえば現場にはいませんでしたもんね。だったら聴かせるより見てもらったほうが早いかな……」
そういいつつ私は頭のたてがみにあたる髪をかきわける。
そこに有る額に力を込めて。
「それは……!」
額の瞼が開く。
そしてもう1つ。
胸の服を少しはだけさせれば。
「ここもかな」
「なんという……それに、雰囲気が突如変わった。先程まで、ただの隣人だったというのに、いきなりどこか遠い存在を感じられるように……これが、隠していた、ということか……」
ミルーカは私の胸から生えた石を見て深く息をはく。
神力は封じてるし単なるニンゲンは感知できないものの……
ニンゲンに化けているという意識をなくせば普段私が自然に纏っていた様々な擬態がなくなる。
それがきっと遠く感じた原因だろう。
胸の石はロックカット済みだから綺麗だよ。
ミルーカは私を見つめてきて……ハッとして目をそらす。
「済まない。魔物とは言え、女性に不躾な目線だった」
「いえ、見てもらおうと思ったので大丈夫ですよ。むしろ信じてもらえてよかったですから」
私は再度髪と服を直す。
ミルーカはまた何かを考えるかのように顎に手をやった。
「それにしてもだ……ぼくは未だに驚いているよ。魔物がこうして、ニンゲンと共に冒険者をやっているだなんて。いくらぼくが世間を知らぬとはいえ、常識はずれなのはわかる」
「まあ、でしょうねえ……あ、だけれども、別の大陸は少しずつ普及しだしたんですよ」
私は共に座りアノニマルースの事を語る。
さっきはすごいざっくりとしたことしか伝えてなかったので事細かに魔物の街を話すと面白そうに目を輝かせた。
彼の暗い復讐心で埋もれ曇っていたものが少しずつ晴れているのかもしれない。
アノニマルースは私達自慢の場所だ。
隠しているわけではないが面倒くさいのがたまにいるのと別大陸に広まるのはどうしても時間がかかるのが合わさる。