三十三A生目 打上
クライブくんが身体がサバ折りになりそうなくらい頭を下げているのを上げさせる。
多分このままだと帰ってこないので。
「それにしてもふたりとも……もしかして抜け出して来たの?」
「うぐっ」
やはり思った通りらしい。
「それほどまでしてお礼を? それこそ後日で良かったのに」
「も、もちろんそれもそうなのですが……ね?」
クライブくんがミアに目線を送る。
おやミアから何かがあるらしい。
ミアは私のほうに近づきこちらをじっとみる。
「……本当にローズさんなんですね。うん、そりゃあそうなんだろうけれど」
「ミア?」
「ローズさん、わたしは……わたしたちは、ローズさんはどうであっても、ローズさんだと思ってますから!」
「ああ……」
ミアがこちらの目を強く見てくる。
私はそれで理解した。
私の根にこびりつくような不安感を見抜いて言いに来てくれたんだって。
私はミアのほうをしっかり見てから肩に手を置く。
もはや村娘にしては傷と力のついた身体。
手の先からも酷使した筋肉がほぐしている途中でかたいのが伝わる。
「ローズさん?」
「ありがとう、それを言いに来てくれて」
「ええ!」
何を言うか迷った。
その上でミウの気持ちを汲み取ることにした。
抜け出した事を怒っても仕方ない。
ミアたちはそれで満足したのか身体の痛みで震えながら治療院へと去っていく。
なんとも不安になる光景だが……
きっと大丈夫だ。そう思える。
ココまでそれを言いにこれるふたりなのだから。
村娘と領主が二人三脚で歩んでいくのを私は見届けて。
それから宿の中へと帰った。
私はアノニマルースに戻り疲労を落とすかのように湯に浸かっていた。
公衆浴場もこの時間になるとガラガラだ。
幽霊系の魔物はあまり入らない……入ると不都合がたいてい起きるら余計にだ。
身体を清めた後4足に戻り湯の中に身体を沈めた。
「ふぅ〜……」
私もそんなに毎回細かく入らない。
シャワーと毛皮ケアで済ます。
これに関しては毛皮を傷ませないためという面も大きいけれど。
だけれどもこうして何か疲れたあとは浸かりに来てしまう。
今日はひとりだがこういう日もいいものだ。
それにしても……
「みんな、今日は活躍できていたなあ……」
最初の頃あれほど頼りなかったりそもそも戦う術を知らなかった者たち。
それがあれほどまでたくましくなるとは。
「もうそろそろ独り立ち、かなあ」
ミアは特にそうだ。
あとは村に帰るしかない。
きっと貴重な経験にしてくれるだろう。
あと相手の心に潜り込む"無敵"の神力。
これは私の心的疲労を思ったよりも増していた。
アレ1つで激務をやり遂げたかのようだ。
岩にやったときはそういった負担がなかったのでやはり心ある生物だったり敵対していたり思考力が高かったりと心理的防御の高い相手には通じにくいのだろう。
毛皮が湯を吸って重くなる感覚はどことなく心地がいい。
温かみのなかに心を溶かすようにまどろんでいく。
身体が湯と混ざるんじゃないかというくらい柔らかくなっていく感覚に身を任せるのがとても心地良い。
泥のような疲れが湯でほぐされとかされる。
ああ……今日はよかった。
湯から上がったあとは毛皮をかわかし手入れしていく。
油分をいい香りのするオイルをつけた櫛でつけていかねばならない。
コレばっかりは贅沢でもやらせてくれ。
明日は……打ち上げかな。
「「かんぱーい!!」」
こんにちは私です。
ここは再び翠の大陸で冒険者たちの集まる酒場。
昼間っからなにしているかといえば今日は宴会貸し切りである。
冒険者たちがこれでもかと集まりこんな時間だろうと酒盛りしている。
普段は静止に回るギルド員すら呑んでいた。
そして私はなぜか舞台みたいなものの上に乗せられていた。
なぜ。
「昨日の説明してくれるんだろー!?」
「よっ、大活躍!」
「もっかい魔物みたいな姿になってくれや!」
「わぁ、できあがってる」
私の周りでわあわぁ言ってる冒険者たち。
もはや昨日命がけの戦闘をしていた面影がない。
ただなんとなくここにこさせられた理由はわかった。
私は押し付けられた割ったラム酒みたいなものを手に取り……
それから期待の目で見られる。
よーしやれってことだね!
私は一気に流し込む。
しっかりとした苦いかおりのあとにギュッと抱きしめてくるような甘みのかおりが襲う。
そこからたまらない辛さのかおりが麦芽の芳醇さを……おいっ!
「誰かビールを混ぜたでしょこれ!?」
「「ワッハッハー!」」
「だめだこりゃ」
他人に勝手に酒のちゃんぽんしない。
これ絶対。
私だから効かないだけである。
諦めのため息をはいて再び向き合った。