三十二A生目 感謝
無機物とのシンクロもなかなか大変だったがニンゲンとのシンクロもなんとか出来たようだ。
アノ時は何か心というより大自然との調和を感じた。
瞑想でもした気分になれたし岩からはキレイな石をもらえた。
あとで鑑定してもらうとなかなかレアな結晶石なのが判明したが。
そしてアリシアだ。
あれほど暴れ狂っていたにも関わらず今では静かになっている。
あのあと領主一族たちは拘束手続きを行われた。
あれほどの大暴れだったのに終わりはなんともあっけなく。
アリシアが抵抗をやめていたゆえもあるが。
彼らの罪は公になり国の検事機関や裁判が凄まじく忙しくなるだろう。
なにせ罪を犯した者とその規模がとんでもないのだから。
ここから芋づる式に引き抜ける犯罪者も多数いる。
このあと彼らを待ち受ける罰はどれほどになるのだろうか……
ある意味その上であの介入は残酷かもしれない。
「ローズさん、何を悩んでいるんですか?」
「いや……彼女を、アリシア・ミルドレクドをただ倒すんじゃなくて、少しだけ洗脳をといたのは、残酷だったかな……って」
「よくはわかりませんが……けれど、この後彼女たちがどうなるにしても、いつまでも苦しむのと、反省をできるのと、救われるだけマシだと思いますよ! ほら、ただ苦しい人が、あんな顔をしますか?」
私はミアの言葉と共に連れて行かれるアリシアの方を見る。
それまでただ粛々と歩いていたアリシアがこちらをちらりと見て。
ふと目元だけが柔らかく笑ったのが見えた。
暖かなにおい……まるで場につかわないものをかげた。
それは……少しでも良かったかな。
私達はその後の作業が苦しむこととなる。
館の中で戦っていた冒険者たちは既にボロボロなので回復するために治療へ運びまくって。
後方組である私達は荒れた現場を指揮しつつ立ち回って資料を集めまとめて。
館を再度探索し拡張を解除して。
多数の揉め事を端から解消して。
証拠品や押収品を1つずつ検品して……
地獄ともいえる戦後処理である。
戦争してないのに。
「終わらない……」
もはやミアたちは引き上げている。
そりゃそうだ。
アレだけズタボロなら否が応でも治療院にぶち込まれる。
多分今頃アドレナリンが切れて全身激痛かつガチガチになっている頃だろう。
あっちはあっちで大変だ。
こっちも根をあげるわけにはいかない。
私は少しノビをして再度資料の山に向かおうとして。
周囲からの視線に気づいた。
正確には見られてるなーとは思っていたもののここまで熱烈にあちこちから目線を送られているとは思わなかったというか。
そして思い当たることもある。
それらはきっとミアたちも聞きたいだろうと思ってあえて言っていなかったのだ。
「……やっぱり気になります?」
「まあ、さすがに……」
「それ、どうなってるの?」
「さっきの活躍すごかったらしいよな……」
「やっぱり魔物……?」
「まあ、コレが終わらせてからまとめて伝えるので、まずは終わらせましょう」
みんなは各々うなずいてこちらを気にしつつも作業に戻る。
私は棘なしイバラたちを動かし全力で作業終了に向けて仕事をしつづけた……
まぁ終わらない。
知っていた。
不正の検査は非常に厳しく厳格で私達が総出でかかってもほんのわずか整理することが出来る程度だ。
本業の方たちが1月とかかけてやる手間をとらせる説得の力。
そのために私達は様々なさわりの部分……まさしく氷山の一角を見えやすくする仕事だ。
それだけでも大変なのに誰がどう戦って何が行われ傷が死者が復活がという話は私達がやるしかない。
ギルド員の方たちも死にかけているが一段落だけはついたので時間的に終業である。
少なくとも打ち上げは翌日以降と決めてフラフラになりながら宿に向かう。
アノニマルースじゃなくてこの領都でとれた宿だ。
「あっ」
「わっ!」
「……え?」
しかし宿の前でふたりが座り込んでいた。
その背姿は明らかに見たことがあり……そのことに応えるように私を見つけ声をあげる。
暗がりから出て宿のあかりに照らされたのはミアとクライブくんだった。
「ど、どうしてここに!?」
「ローズさんを待っていたんです、その、まだお礼もまだでしたから」
「そ、そうです! このたびは、本当にありがとうございました!! 自ぶ……わたくしの身内を、止めてくださった皆様方には、そしてわたくしを救ってくださった皆様方には、感謝してもしきれません。ただ、わたくし個人で動かせるものがないので、お礼を渡せないのが非常に心苦しいのですが……」
「あ、ええっと……はい、感謝を受け取ります」
今のは領主としての言葉だ。
これを受け取らなければより困ることになるだろう。