二十七A生目 投剣
「あと少しなのに……!」
もう少しで階段エリアだが満身創痍が5人。
多少傷はある程度だが戦闘能力のないひとり。
「ポーションは?」
「もうあんまり……! さすがに消費が多すぎた!」
バンが手元を漁るが残りの回復薬の量は5人治す分はない。
ゴズが舌打ちをする。
「こうなりゃ覚悟決めるしかねえ、きばれや!」
「ミア! お前は領主を逃がす係だ! 走れ!!」
「食い止めたらぁ!」
「そ、そんな!? みんなは!?」
「議論している暇はない、大丈夫、アタシ達だけじゃない、でしょ?」
ゴズやバンたちが少ないポーションをかけてまわる。
4人で決死の覚悟で……それこそ刺し違えるほどの姿勢でアリシア・ミルドレクドに向き合う。
肝心の彼女は大暴れでもはや物を片っ端から破壊しているが。
「殺す、後悔させて殺す、苦しませながら殺す、この世に残らぬように殺す!!」
斬撃がめちゃくちゃに飛んで物を壊す。
踏み込んだと思えば柱が砕ける。
雑に切り払ったら箱が吹き飛ぶ。
当然近づいたら身体が飛ぶことになるだろう。
それでも彼らは残ることにした。
「いけーっ!」
「っ行こう、領主くん!」
「そ、そんな……!?」
クライブくんが遅れて理解する。
ミアがクライブくんに顔を見せず階段をかけるけれどその背中が泣いていることを。
共有している視界が一瞬にじんですぐにぬぐいとられた。
「舐めるな小僧どもぉ!」
「俺たちだけで十分なんだよお前なんてなあ!」
ロッズの叫びが背後で響く。
そして鳴る金属の擦れる音。
弾く爆発の揺れ。
子どもを抱えて階段をかけるほどではないのでミアとクライブくんは手をつないで走る。
階段を駆けるが想定以上に激震でクライブくんが体勢を崩す。
引っ張ってなんとか駆け上がって。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「か、階段を上がれた……!」
ミアとしては動きたい気分だがクライブくんの腰が抜けてしまった。
暴力と殺意の空間からほんの少し抜け出せたせいで緊張の糸が切れたのだ。
ミアはクライブくんを担ごうとして……
激しく地面が揺れだした!
「な、何!?」
「建物が、揺れている!? し、したから何かが!?」
地面の下から来るものなんて限られている。
それを認めたくないだけだ。
「危ないっ!」
ミアが慌ててクライブくんを引き寄せると床が破裂する。
床下からの攻撃だ!
ミアが突き飛ばされたようで視界が空を舞う。
「ハアアァァーーッ!!」
そして突き破ってきたのはアリシア・ミルドレクド。
コレまでも予兆はあったが悪魔の力が越殻者として神の力を振るいだしてきている。
空間拡張の魔法による不壊状態すら無視しだした。
「そんな……」
「カッ……ハァッ……ハァッ……てこずらせて……わ、妾をここまでコケにしたこと、万死に値するぅ……!」
アリシア・ミルドレクドはもう完全に肩で息をしていた。
傷よりも全力稼働による疲労のほうが大きいらしい。
顔を大きく歪ませ精神的に苦しんでいる様はまるで勝っている側とは思えない。
「は、はやく……っ!? 足がっ」
そしてミアはさきほど咄嗟にクライブくんをかばったさいに足を思いっきりくじいたらしい。
右足が力が入らないほどに痛むようだ。
おそらく捻挫した。
両手剣フラワーを使って必死に立ち上がる。
ツタの魔法はまだ補助をさせられるほど器用には動かせない。
クライブくんと共に無理やり動く。
「誰か……!」
「待ちなさい、お前たちだけは! 逃がすものかっ!!」
アリシア・ミルドレクドは血走った目でミアたちを睨む。
だがその背に突きをするほどに力がなかった。
床を突き破った代償は大きい。
それでも足取りはしっかりと歩いている。
ミアとクライブくんのヨロヨロとした動きより断然にしっかりしていた。
そして。
「く、くそう……! アリシアなんかに……負けたくない……!」
クライブくんが祈るように吐き捨てるように言葉をつぶやくと胸の内側が輝き出す。
一瞬アリシアが警戒してあゆみを止めた。
ミアは必死に引っ張っていて気づかない。
そしてクライブくんは……
たった1つ小さな氷弾を魔法ではなった。
それはアリシア・ミルドレクドの頭に飛んでゆき……
驚いたアリシアが固まったのと奇跡がかさなって。
アリシアの左目に飛び込んだ。
「ぎ、ギャアッ!? く、クソガキが!!」
それは傷と言うにはあまりに大したことのない1撃。
しかし目に入れば痛いしすぐに治るとはいえニンゲンという構造上怯む。
凄まじい怒りを買いアリシアが左目を片手で覆いながら殺気の目線を送るとクライブくんは魂が抜けそうなほどに青い顔をした。
そして……アリシアは手に持っていた剣を投げつけた!