二十四A生目 窮地
アリシア・ミルドレクドが5体に分裂し各々を襲う。
ミアも少なくない突き刺しをくらい致命打を避けつつもかなりの痛手だ。
「うーん、やっぱりあんた、切り裂く時に奇妙な感覚……まるでスライムでも相手にしているかのようね」
「そうですか……なら相性は、悪いんじゃないかな……!?」
ミアが肩で息をしながらそう応えるのが精一杯。
なによりアリシア・ミルドレクドの気迫に圧されている。
強者の圧に食われかけているのだ。
ミアの持つ両手剣フラワーの特殊効果で"柔軟流変"がある。
これによりミアの身体はまるで軟体のように動く。
端ならば貫き斬り裂かれたとてヌルンと変形しそこまでの事がおきない。
それでも身体が切れて服がズタズタになり鎧は傷を受けているり
つまり度重なる攻撃で限界を超えたのだ。
今も剣先が6つくらいに分裂して見えている。
コレはミアが相手の攻撃全てをまともに捉えられていないからこそ起こる現象だ。
ミアが必死に転がり避けた先で追撃の1発。
立ち上がった瞬間土手っ腹に突き光が深く入った!
そのまま吹き飛ばされ腹を抑えうずくまるミア。
立ち上がって向かわなければ危険とわかっていても"柔軟流変"で流しきれなかった分貫通するかのような衝撃だったはず。
「うぐっ……!!」
「あらあら、さっきまでの威勢はどうしたのか? やはり妾の力はお前たちのような賊には過ぎたものだったようだな」
「どっちが……賊だ!」
「フフッ、仲間の助けは期待できぬぞ?」
ミアがゆったり近づいてきたアリシア・ミルドレクドに剣を振りかぶるもののあっさり身を引かれかわされる。
ただおかげで立ち上がる時間はつくれた。
剣を支えに1度たてれば不思議なものであんがいシャッキリと足を動かせる。
呼吸を整え剣を再度構えた。
「大丈夫、みんなわたしの助けがいらないくらい活躍できるって、わかってるから」
「あら強情……そんな相手の心を順にへし折っていくのが、実に楽しいのよねえ……そう、楽に終わらせない。ゆっくり、じっくり、斬り刻んであげよう」
アリシア・ミルドレクドはサディスティックな笑みを浮かべる。
だがそれはミアにとっては朗報だ。
時間がかかればかかるほど状況は攻め側有利に傾く環境。
下手に反論せずむしろ集中して剣を横に掲げる。
両手でもつ剣は美しい木製で存在感を放っていた。
「そんな姿では妾の剣は防げないぞ?」
「……開花け、フラワー」
そうミアが話した直後だった。
両手剣が光を帯びて剣についていた花が咲きだし……
いつの間にか周囲の景色に花びらが満ちて。
アリシア・ミルドレクドの肩口がえぐれて血が吹き出たのは。
「は?」
傷口はすぐに塞がるが苦々しい顔がミアの目に映る。
ミアはついていたつぼみが花開いた両手剣フラワーを再度構える。
「まだ使いこなせる自信はないけれど、そうも言ってられない!」
「何をした小娘っ!!」
やっと対抗出来る状態になり互いに切り裂き合う。
そうミアが押し込みはじめたのだ。
強烈な突きを剣の花光が受け止めかわりに花びらが散って両手剣が振られるとアリシアの胸が斬り吹き飛ぶ。
すぐに再生するもののさすがに肩で息をする羽目になっていた。
「おかしい……! 身体に奇妙な感覚はあったが、武器にはそこまで奇妙な力はなかったはず!」
「"柔軟流変"二式」
ミアがつぶやきながら両手剣を振るう。
剣の形状が揺れ動き瞬時に切り裂く。
さらには腕自体が一瞬伸びた。
すると相手のリーチや剣技を無視して凄まじい威力で叩きつけている。
光で保護しているとはいえやっていることはなかなか高度だ。
攻めの柔軟流変ということか。
なにせ威力を高くするにはプルプルのままではいけないし腕が失敗すれば折れたり筋肉断裂したりなにより剣を支えられなくなる。
集中力と訓練を求められるだろう。
砦の時に見せた似た動きとはまるで次元が違った。
「なぜそのようなことがっ! まるでさっきまでと違うじゃない!」
「柔軟流変は解釈でより強力になる、特殊な武器能力、わたしが使いこなせれば、より強くなる!」
ミアの武器はミアと共に強くなる武器だ。
ミアの能力がなければ剣は答えてくれない。
地道な経験の積みと閃きがなければこうならなかっただろう。
「あなた、戦いなれていない」
「何を……!?」
さらに散る花にも意味がある。
視覚を非常に邪魔な光景となっていた。
それなのにミア視点からしたら邪魔になっていない。
相手の動きを阻害しミアの動きをサポートする。
敵のギラつくような突き刺しを華麗に避けていく。
タネがわかっても対処できるものではないからだ。