二十三A生目 分裂
私は……というより私のいる後方チームは慌ただしいことになっていた。
なんと各メンバーが見つけてしまったのだ。
重要メンバーと変身する相手を。
Aグループじゃない先方組はこの領主における騎士長。
剣と盾における守衛が完璧で近寄るのが困難。
ある意味こいつがドルノネード家の息子たちを幼い頃から洗脳した主犯。
後発組はドルノネード家がひとり長男の変身体と遭遇。
頑強かつ再生能力が高く毒を撒くため時間がかかる様子。
裏口組は変身体はいないものの強力なゴーレムに囲まれている。
重要なものを守っている様子だがなかなか近づけないらしい。
つまるところ……
「どこも応援がいる!」
「戦力を分けた分相手も戦力がわかれましたが、かなりの強敵だね……」
「きついな……どうにかしてサポート出来ればいいが」
「道をうまく分けなければ、敵が合流するのが最もまずい。兵たちもまだいますし、冒険者たちも全員合流できているわけじゃない」
「こっちも兵力集めてなんとか突破させて! けが人をうまく下げるための陣地を構成しないと!」
もはやみんなバタバタと走り回り足りない人員を足すために前に出ていったりしている。
ぶっちゃけ強いヤツに対して並の者たちが前に出てもものの数にはならない。
どれだけカバーに入れるかが肝心だ。
「結界の設置を最優先に! 挟み撃ちや合流は防いで! 攻撃は下手に関わると巻き込まれるだけだから、迎撃に専念できる環境を作って!」
「「はい!」」
さすがに私も不介入決め込んでいる場合ではなくなったかもしれない。
私の仕事の残しは私がカタをつけねば。
私は歩み屋敷を睨む。
「行くのかい?」
「変身した相手は少しとはいえ、悪魔としての力を……越殻者の力を振るいます。私の仕事のやり残しだから……危険な順に越権しないよう、向かいます」
「気をつけてくれよ……ここでアンタを失えばおしまいだ」
「もちろん」
私は最後に情報整理を行って……
館の中へと足を踏み入れた。
そしてふたたびミアたちの様子はと。
「ウッ、くぅ……!」
「あらあら、そろそろ諦めて、素直に心臓を差し出したらどうかい?」
「だれ、っが!」
相手の突きとミアの全力の桑振り縦斬り。
光が衝突しあいバチバチと音をたて鍔迫り合いをしている。
どちらが優勢かは見て明らかだった。
「うわっ!」
そして弾かれるミア。
突きの光も横にそれて床に穴を開けたが動きはまだ止まらない。
1歩踏み込んでそのあとに思いを変えて一気に下がった。
その場に床から土槍が細く鋭く生える。
「惜しかった!」
「さすがにねえ……っと!」
そして左右からの追撃。
バンとゴズが双撃して同時にアリシア・ミルドレクドは剣を振って弾く。
「くそっ、さっきから速すぎて、追いつかねえ……!」
「俺もだ、割って入りたかったのだが、その前に届いていた。目には見えているはずなのにな……」
ウッズは魔法を避けられロッズは槍でのガードに長けていると見抜かれなかなか攻めてこない。
そもそも細剣と槍ではどれだけ工夫しても固定して持つ槍のほうがリーチはある。
しかも突きが主体だからロッズが避けられるのは自明の理だった。
「どうする……」
「そろそろ慣らしはこれだけで良いかい? 妾のこの力にも慣れてきた所なのでな、そろそろ決めに入らせてもらおうか」
「まだ強さが上がるのか!?」
そして最悪なことに彼女が繰り返していたのはあくまで基本的な技。
ニンゲンの時に出来る技を変身した剛力で放っていたにすぎない。
ここからが本格的な力だ。
「フフフ……」
「フフフ……」
声が増えて。
「フフフ……」
「フフフ……」
「フフフ……」
影が増え。
「「フフフ……」」
身体が増えた。
しかも5体。
「なぁ!? 影がわかれた!?」
「げ、幻術だ! どれかが本物なんだ!」
「あら、ツレない言葉ね」
「妾たちがどれかが偽物だなんて」
「本物の輝きは曇ることないというのに」
妖艶な笑みをたたえ……
5つのアリシア・ミルドレクドはその悪魔の身体をそれぞれに別の動きで攻めてきた。
「なっ!?」
「格下を妾たちがまともに相手すると?」
「それぞれの妾と戦ってもらおうかの」
「本当に偽物がいるかの?」
そうして……乱戦が始まった。
5対5では1対1が5つ出来る組み合わせ。
連携を組んで相手を倒す冒険者としてはなんともあくどい戦法を取られた。
ミアは他を見る余裕もなく目の前に迫ってくるアリシア・ミルドレクドを正面に捉える。
たくさんの突斬撃が飛んできてそれを必死にミアが横に避ける。
ただ捌けているわけじゃなくてギリギリ武器の"柔軟流変"により柔らかく避けられただけだ。