十二A生目 電撃
門番と冒険者の間に強く緊張が走る。
バンはあくまで冷静に書類を拾い上げ土を払った。
「へえ、お取次願えないと?」
「当然だ! こんな訳の分からない者たちなど、通せるか!」
「フン、それにその貧弱な武装、我らの敵ですらない。冒険者ギルド? 強制監査? なんの権利があってやるんだか」
当たり前だが門番たちがこうやって冒険者たちと騒ぐことで内部には情報が行く。
ここからは時間勝負か。
私は後方で見ているだけだが同時に全体の動きをしっかり見張っている。
ひとりも領主組を逃す気はない。
「だめだ、これは国際的にある権利で、先人たちが勝ち取ったもの。王都冒険者ギルド本部も承諾していることだから、拒否権はない!」
「オラオラ、通るぜ!」
「邪魔だ、お前らは直接関係ねえだろ!」
「何を!? 敵襲、敵襲ー!」
当然こういう流れになる。
門兵が叫んだところでみな鉄の刃を引き抜いた。
とはいえこの大陸において鉄剣とは練習用の武器。
刃を潰した練習用の剣は少なくとも木で出来た実剣よりおそろしくないのがここの大陸。
しっかり木製の槍を持つ門番兵たたは数に引けつつも距離を活かして下がっていく。
「オラァ! 帰れ!」
「近寄って見ろや!」
門番たちは威勢のいい声を上げて下がっていくが冒険者たちはギラついた目をしながらも下がらず詰めていく。
やがて相手の槍が届く圏内に来て。
怒りに触れたのか躊躇ない槍の1撃が振るわれる!
「死ねっ!」
「あぶねぇ!」
木槍は鉄の剣を切り裂きつつ冒険者の顔近くをないでいく。
その瞬間バンの唇の端が上がったのを私は見逃さなかった。
「非武装人民に暴行! 強制監査開始!!」
「行くぞおおお!!」
「ウオオオォ!?」
「な、なにをするー!?」
今しがたの行動で理論武装が完成してしまった。
犯罪行為が目の前で発生してしまったのだ。
彼らも散々単なる練習用のものだといったものを持っているだけの相手を敷地に踏み入ってないにも関わらず武器で切り裂いた。
詭弁? いえいえそもそも進路妨害で揚げ足をとらなかっただけマシですよ。
というわけで冒険者たちは恐喝するかのような声を上げながら集団で一気に乗り込んでいく。
流石に門番は2人に対し一気に10だの20だの相手できるはずもなく押し込まれてしまう。
「いてまえ!」
「おら!」「なんぼのもんじゃ!」
「通せや!」「邪魔じゃ!」
「や、やば……!」
もはや槍のリーチでないほどに詰められるとただの弱い鈍器と化した鉄武器たちで囲んで叩かれる。
門番たちがノされるのはあっという間だった。
ただその僅かな時間に領主館からは兵たちがわらわらと顔を見せだす。
「次きたぞー!」
「広がれ! 数の利を最大限活かせ!」
「あ! Cグループ、裏手に回り込んで。怪しい動きしているやつらがいる!」
「りょーかい!」
私は全体探知かけつつ怪しい動きを防ぐため指示を飛ばす。
さあここから本腰をあげて仕事だ。
「怪我したやつはさがれ! 敵は殺すな、殺人の許可はおりてない!」
「くそっ、めんどくせえな……!」
「まあまあそう言うなって、人は死んでたら価値が低くなるけど、生きてりゃ裁くにしろ価値はあるんだ」
「わかってるよ、魔物を倒す時と、おんなじだろ?」
冒険者たちがわいのわいの言いながらも姿勢は大真面目。
貧弱な武装だから相手の剣や槍をまともに受けないようにしつつ数で囲んで押している。
後方で魔法使いたちがちょっとした妨害や強化それに回復をしていく。
「あ、まずいまずい、なんか向こう陣営魔力ためてる、来るよ!」
「防護壁あわせて! よーし……守れ!」
当然向こうは容赦ないのでいきなり巨大な水塊がとんでくることもある。
それをこっちも数人ががりで光の壁を作って防いだりも。
矢が飛んできたら土壁を生み出して防ぎ。
敵の総数そのものは少ないので冒険者らしく数で押していく。
さすがにフル装備をしているような者はおらず簡易な防具とよく切れる武器だけがある。
冒険者にとって当たると致命的な攻撃を振るわれるのはよくあることなのでむしろリーチの低い相手の攻撃はしっかり避けていた。
前に出ているものたちは全体的にレベルも高く相手へ対処しやすい。
準備万端なこちらが負けるはずもなかった。
「おら! これで大人しくなりな!」
「何だそれアババババ!?」
そして組み伏せた相手にジェル状のものを冒険者たちは鎧の下……首のあたりなどにぶん投げる。
すると凄まじい勢いで発電し感電する。
最終的に気絶した兵の出来上がりだ。
これは防犯用の品として作ったことのある魔道具スタンスライム。
今回役にたつだろうと作ったのだった。