十一A生目 監査
シドニーさんやギルド長が慌てて来て各方面に指示を飛ばしまわっている。
もちろん突撃準備は済んでいる。
だが過剰なほどに準備を高めていただけで。
しかし人員は常にここへ務めているはずもない。
宿や街なかでいまかいまかと待ち望むものたちが大半だ。
領都の冒険者たちももちろん参加するものもいるがメインは前の時賊討伐をともにした面々だ。
街でのギルドメンバーほぼ総員が来ていることとなる。
本来そんな風に配分するのはありえないが今回は特別。
流石に緊急用メンバーやたまたま立ち寄った冒険者たちはいるものの9割型こちらへ来ている。
もちろん元王族のミルーカやゴズ、ウッズ、ロッズの3人ズも来ている。
なんとミルーカも強制監査にここで待機という形だが乗り気らしい。
自身を不正に貶めた落とし前をつけにきたらしい。
ミルーカは元々は既婚者。
いまでは独り身。処刑されたからだ。
そのせいもあって非常に怨敵として見ているふしがある。
何もかも失って賊に身を費やしてでも復讐を果たそうとしただけあった。
さて領主代行一族はミルドレクド家だが少しややこしいが領主名はドルノネード家だ。
これはドルノネードは確かに領主としてと家名だが事実上領を回している者たちの中で長女が婚姻しておりそこがミルドレクド家なのだ。
領主館で住んでいる。
長男も結婚済みだがこっちに家族は住んでいない。
別棟として領都ではなく少し田舎の方に住んでいる。
田舎といえど別荘地として有名なところらしいので不自由はないが。
ミルドレクド家を打ち倒すしかない。
もはやドルノネード家もあってないようなものだし。
一回しっかり潰さないと。
集まってきた冒険者たちにシドニーさんが前に出てきてひとこと。
「時は満ちた。強制監査を開始!」
「「ウオオオオオォ!!」」
冒険者たちは雄叫びを上げる。
さあ乗り込む時間だ!
領主館の門はその日まではまるで平穏だった。
確かにここ数日多少何かがバタついていたようだがあくまで内部事情。
門兵にとってあくまで違う場所での出来事にすぎない。
「ふあぁ……こうも暇だと、給金上がんねえよなあ」
「なんだ、まだ足りないのか?」
「ったりまえよお、金さえ集まれば、こんなしょぼいところから抜けてさ、良い暮らしと女を抱いて暮らせるだろー?」
「まー、最近そういった仕事のやつら、この街にこねえし、なんなら出て行っちまったからなあ……前領主のころは、そこら中男娼と娼婦だらけだったからなあ」
「そうなのか? 良いなあ、それ俺が若い頃だよなあ? いーい女抱きてぇ〜、特に、金がなくて仕方なく売ってるやつのほうが良いよなあ〜」
「うわ、クズだな〜お前! まぁそっちのほうが反応がうぶだけどさぁ」
そんな会話はまさしく品格が問われるもので。
けして誰もいないとはいえ門前でしていいはずもない内容。
なんなら後半からは間違いなく相手を同じニンゲンだと認識していないむねから来る言葉だった。
故に。
「……ん? なんだあの人だかり、こっち来てないか?」
「お、おい!? まさしくだぞ!? アイツラなんなんだ!?」
そこに翠の大地的には模擬用扱いである鉄剣類を持ったニンゲンたちがゾロゾロとやってきていた。
彼らは勢い良く門の前まで詰め寄ると武器を構える門兵たちをあっという間に取り囲んだ。
「なんなんだぁ!? 貴様らぁ!?」
「こ、ここを誰の家と心得る!? 無礼だぞ!!」
「ふん、無礼か……さっきの会話の方がどうかと思うが……」
「な、なんだ? 誰が代表だ!?」
口々に笑いながら門兵たちを揶揄するのでバカにされているのは分かるがその中身まではよく聞き取れないらしい。
門兵が頼りない槍をあちこちに向けているとひとりの女性が前に出る。
バンである。大槌を背負っている姿はむしろ剣より恐ろしくも見えた。
「はい、冒険者ギルドだよ。これが正式な書面」
バンはチンピラみたいな門番にまともな会話をする気がないらしく冒険者ギルドの正式な書類をさっさと渡す。
そこに書いてある内容にひとりが目を通し……
みるみるうちに顔色を赤くしたり青くしたりと変えていった。
「な、なあ! なんてかいてあんだ、こいつら追い返していかんのか!?」
「……何度も正式な支払い通告をしたにも関わらず、権力による妨害を行い、組織への著しい損害を与えているため、冒険者ギルドの盟約と権利により、強制監査を実行する、だと……!?」
「なっ!? 認められるかそんなの!!」
ふたりともまさしく他人を見た警備犬のようにがなり立てる。
書類を地面に叩き捨てて槍を再度構えた。
当然冒険者たちも一気に空気感が変化し緊張が走る!