十A生目 鏡鳴
強制監査が始まる前後の日。
ここからは時間を調整していつタイミングよく飛び込むかの時間だった。
ちなみに彼等領主一族の従者がせっせと捨てたり隠したものは当然全てチェックしてある。
やはり向こうも今隠せば逆に駄目だとわかっているらしく決定的な品は出していなかった。
むしろ荒れている気配があり割れた調度品とか空の酒瓶とかがよくみつかる。
どうやら権利によって他人の心を考える必要がなくなっていた彼らは降って湧いてきた出来事に心揺れまくりらしい。
その日までせいぜい憔悴していればいいが。
その方がやりやすい。
さてそうこうしている間にとある日の昼間。
私達は冒険者ギルド内にいた。
シドニーさんは奥にいて私とミアと何人かの現地冒険者。
それに3人……例のクライブくんを襲った者たちだ。
彼らは数日前からずっと繰り返しちょっとした作業を繰り返させられていた。
領都内で困りごとを解決したり。
ちょっと外で薬草をつんできたり。
それでも3食食うに困らずにはなれた。
寝食もギルドの安宿を借りられている。
「なんというか……見違えたよね……」
依頼を受けられる程度に身だしなみを整えて。
ちゃんと日々の食事をして。
ボロ布以外の装備を身につければ初級冒険者としては立派な姿となった。
「まさかここまでになるとは……」
「今、元浮浪者仲間に声かけまわってるところさ。冒険者になろうってな」
「そうそう、俺たちでもこんなんになれたからな」
「わたし達がここまで戻れたんだから、他の奴らだって遅くはないはずさ!」
「やっぱり1回はやってみるものですよね!」
知識や認識といった点からしても冒険者というのはただの平民には目新しい。
やはり違うのはその目なのか。
意志の力がまるで違う。
イキイキしている彼らは仕事も能率よくこなしてくれている。
おかげで備蓄が増した。
これだけあれば突入時の怪我もなんとかなるだろう。
そうもちろん彼らひとりひとりの仕事はしっかり対領主一族に繋がっているわけで。
それを後々知った彼らはやる気十分である。
なにせ理不尽な目に合わされて相手そのものなのだから。
「薬草はひととおり調合したし、これだけ在庫ができれば安心ですね。トラップ破壊もたくさんありますよ!」
「過剰なくらい備えはあったほうがいいからね。それで誰かの無事をかえるなら、1番だよ」
私はせっせと積荷を積み終える。
ミアは走り込みの成果か明らかに体力が増してきた。
そろそろ付け焼き刃状態から卒業である。
私は無駄に立派な領主館の方を見る。
むだに立派というのはなんというか……
外から見た時にいかにも古くからあるようなしっかりとした佇まいと存在感の有る壁なのに。
兵たちの話や調査によると中では壁に補修として板を打ち付けただけのものがあったり。
階段が急勾配で行き来しづらいだの。
なんとも狭いところと広いところがまちまちで使いにくいだのとそこまで評判が良くない。
さらに砦としての機能も一応期待されているのが悪さに拍車をかけている。
砦はその多くを防備能力にさいている。
壁が分厚く部屋の空間がおされていても仕方ないのだ。
床は走り回れるようになっているし兵は多く詰めなくちゃ話にならない。
武装も場所を占拠する。
暮らしやすい快適な場所と閉じこもって敵を迎撃しやすい場所はなんとも両立しがたい。
それに防衛用にセキュリティが多いということはそこをくぐり抜ける人々は色々手間取りながらやる必要があって。
結果的に見栄えよりも随分と普段から暮らすには不向きな環境となっていた。
それでもずっと暮らしているのだからたいしたものだが。
私はポッケに入れててある鏡鳴石を取り出す。
そろそろ……こないかな?
来ないのが1番ではあるが。
ここ数日みまもっていたが昼も夜もたいした変化はない。
たまにコロリと鳴ることはあるがその程度だ。
見た目にしても美しい宝石とかではない白い石っころなので取り上げられてはいないだろう。
「……ん?」
今一瞬石が揺れたような。
そう思っている間に石は明確にカタカタと鳴り始める。
「来た!」
「えっ、今ですか!?」
「ちょ、副長とギルド長よんできます!」
鏡鳴石は明確に熱を帯びだす。
震えと音も止まらない。
私が握り返すと徐々に収まる。
さて今しがたちょっとした魔法をかけた。
これは同期する魔導具と言ったが……
単純な仕組みゆえになんと魔法すら同期する。
鏡鳴石の隠された力だ。
鏡鳴石を通して結界の魔法構築を発動寸前まで込めておいた。
ディレイをかけておいたので今頃クライブの意思次第で発動出来るようになっている。
あくまで守りたいとか守って欲しいという意志がないと危ないからね。