九A生目 門番
「ありがとうございます……! その、もし……ううん、とにかく自分で頑張ってみます。ありがとうごさまいました……!」
「またねー!」
私は男の子がみえなくなるまで見送っていく。
さて。
私が渡した石は人工的に作られた石を割ったもので鏡鳴石という。
鏡鳴石は1つの石状態だったもの全てに同調するという性質がある。
割ったあとたとえ山1つ向こうまで離したとしても互いに反応しあう。
もし片方を転がせばもう片方もコロコロと音が鳴る。
片方を握りしめればもう片方は鳴りながら熱を放つ。
これはニンゲンの体温に反応しているらしい。
この魔道具は細かいことを省くもののようは濃度の均衡化になるらしい。
濃い液体と薄い液体がある場合濃い液体は薄い液体に浸透していく。
そしてなるべく同じくらいの濃度になろうとする。
それを魔法的に利用したものだ。
割と仕組みが複雑で論理やら解析やらはかなり重ねられているものの昔から『なんか出来る』からやっている。
細かい原理はしらなくとも扱えるし作れるものの1つ。
ただ同時に……ローテクでもある。
かなり昔からあるものゆえ普遍的ではあるものの似た仕組みを利用した通信機とかのほうが今やメジャー。
なにせこの石だけではちょっと動かしたかどうかみたいなことしかわからない。
一般知名度はないに等しいだろう。
ちなみにこの仕組みと魔法を利用してギルド証から緊急救助要請出すだの書類に書かれた実績を同期させるだのとやれる。
だれもこんな石が元の原理だとはしらないだけだ。
さて文字通り布石はうった。
今日はこのまま直帰していいと許しは得ている。
あとは時を待つだけだ。
シドニーさんはやはりというか勘づいていていた。
少年の正体について。
あそこから数日は準備もろもろで忙しかったがそれとなく正体は聞かれていた。
私もはっきりとは答えずとも「想像どおりかと思います」とは返していた。
というかまあ……領主館の方角へ帰っていく子はひとりしかいない。
慌ただしいなかでもあの子に想像を働かせていた。
なにせあの子の名前はクライブ・イー・ドルノネード。
現当主の名前なのだから。
正直……想定より若い。
12か13かくらいかな?
前領主本当の死亡時期はもっと前なので当然血の繋がった子はいるはずもない。
つまり本来は血の繋がりのない関係となる。
おそらくにおいをかいでみればまるで繋がりのないことがわかるのは1発だろう。
まあ年齢的に絶対違うが。
つまりなんであれクライブくんは被害者だろう。
本当はその場で確保してしまいたかったが正当な理由がつけられない以上こっちが不利になる。
そもそも強制監査に入る前なのにこちらが不利な行動をしては意味はない。
そのかわりとっておきの秘策として鏡鳴石を渡したわけだ。
ちゃんと役立つ日を思いながら準備を整える。
さて私がやる準備というのは作ったり持ち込んだりといった細かい作業もあるが。
1番は潜入である。
領主館のどこになにがあって戦力はどうか。
街なかの噂や街に来る兵たちのオフ時にきける話も含めてだ。
まあ予想通りといえばそうなんだが。
「いやー、もう随分と忙しないねえ、やたら警備も強化されてさあ!」
「詳しいことは教えてくんねえけど、なんかあるっぽいよなーありゃ」
「給料あがんねーのに、あんな防備固めてどうするんかねー」
突入にガンガン備えているらしい。
不正の隠蔽は限度があるから結局防御力を高めることにしているのだろう。
ためた金を捨てるのなら今まで貯めた意味など無いのだから。
そういった話は酒場で無限に聞けたし夜分に外側から調べればありとあらゆる工作なんかもうかがえた。
……もし私がゴーサイン出されれば行けると思う。
けれど今回の話はそういうことじゃない。
地元の者たちが解決すべく動いて地元の力でどうにかなるべきだ。
でなければそれは自浄作用たりえない。
他の地方にいる者たちへの警告になりえないだろう。
私はミアの走り込みやら剣術やら魔法を見つつ。
裏でアノニマルースで冒険者グッズをえっちらほっちらつくる。
おそらくどれも使えるものになるだろう。
なにせ相手の対策を見張りつつやってるんだから。
それにしても実質支配者たちの顔は外で拝むことはなかった。
引きこもってしっちゃかめっちゃかしているようだ。
中に関してだが私が普通の範囲でスキルを回してみたところいくつか暗所が見つかった。
外から看破できないまたは透視できないようになっている。
結構結界で阻まれるので仕方ない。
まあ神の力を使えばいけるけれど……
今のところ敵対神の気配はない。
人形でも出てきたらフルで振るうのになあ。