八A生目 小石
3人の問題が片付いたところで。
私とシドニーさんは男の子のほうの問題へとあたることとなった。
「怪我はなかった?」
「え、あ、はい。怪我をする前に助けていただけたので……あの、本当にありがとうごさまいました」
随分と丁寧な言葉遣いでペコリとする男の子。
なんともそれだけで不安になってしまう部分はある。
ただ私は"観察"して原因は知っているのだが。
シドニーさんはさすがに布地の違いはわかるが男の子に関しては何もわからないといった様子だ。
「……さて、ここで話していても致し方ない。1度座るか」
「あ、はい」
さっき3人に沙汰を言い渡したところではなく客間に移動する。
そしてギルド員に茶を入れてもらい3人で1息ついた。
「はふ……これは、ベルーガンランド産のアッサム種、ええと、ネラダのミルクティーですが……ああ! メンロンフレーバーですね。高級な果実ですが、同時になり損ないも多いと聞きます。紅茶のフレーバーなら、サイズや味は関係がないですからね、良い香りです」
「あっと、ええ……?」
「ほほう、その年で、随分と精通されている。やはり、ただ街なか手間彷徨っていた子どもというわけではないようだな?」
「あっ」
しまったといった声で男の子は驚愕する。
多分今特殊な行動をした……という自覚を得たところなのだろう。
おそらくは普段そういった行為をする環境で生きているがために。
しかしシドニーはそっと落ち着かせるように話す。
「気にするな少年。我々は被害者の身分に関して動向尋ねるつもりはない。それよりも、家へは帰れそうかな? それとも、送ってあげたほうがよいか?」
「い、いえ! 今度はちゃんと帰れます……多分。さっきは、うっかり迷い込んじゃいまして……」
「そうだな、どこへ行くにも、大通りを通った方がいい。出なければ大人が同伴しなければ。それはここの街に暮らすものなら、みな常識だ。だな?」
「そ、そうですね……」
「フム」
シドニーさんはこちらに目線を送ってくる。
シドニーさんも脳天的にたんなるこどもだと思うことはなかったようだ。
そのことに少し安堵しつつ男の子の方に目線を合わせる。
「じゃあ、途中まで送っていくよ。それでどうかな?」
「えーっと……」
「受けておけ、少年。その女性は、見た目と違い凄まじい腕利きだ。多少のわがままも聴いてくれるだろう。ただで高位冒険者を使える機会など、そうそうないぞ?」
「あはは、まあともかく、これは好意からだから、ぜひよろしく」
「つ、強い方なんですね、やっぱり……! あの、3人をよくわからない間に倒したんですもんね!」
「まあ少しはね」
男の子を安心させるために言うとパァァァと明るく目を輝かせる。
フードの下からのぞかせてるだけなのにわかりやすいものだ。
よかったよかった。
冒険者ギルドから出てふたり並んで歩く。
非常にキョロキョロしていて見ていてほほえましくもある。
「何か珍しいもの、見つけれたかな?」
「え、えっと……普段はこうしてことだなんてできないので、とても新鮮なのです。本当はもっと見て回りたかったのですが……」
「私は大丈夫だよ。行こうか?」
「い、良いんですか!? ぜひ!」
ミアには念話で連絡を入れてある。
この子を連れて歩く時間はあるだろう。
少年の歩みに合わせて歩く。
私としては気になる謎がこの子のせいでメチャクチャ増えたが……
今はこの子の感情を優先しよう。
市場で歩いてなんでもない品々を見て回り……
少なくはあるがはしゃいでいる子どもたちを羨ましそうに遠くから眺め。
何気ないすぐそこにある裏路地に潜む飢えと乾きの人々に恐怖するのに目を離せないでいた。
男の子はそれらを見て深いため息をつく。
感心して諦観して自責して。
それは小さな子が抱える大きさではないことは確かだった。
「あ……ここからは、ひとりで帰れます……」
とある道に差し掛かったところでその子は足を止める。
まるでこの時間が名残惜しいかのように。
家に帰るのが苦しいかのように。
「大丈夫? 随分と苦しそうだけれど」
「え!? いえ……ただ、自宅に帰るだけです。だから……大丈夫です。やらなくちゃ、いけないことですから」
家に帰るのをやらなくちゃいけないことと表現する時点でただことではない。
その『家』は街なかの様子を見て覚悟を決めなくてはならない場所ならば。
「だったらさ」
「は、はい?」
「困ったことがあったら、これを強くにぎって。それで誰かが……冒険者が、きっと助けに来るから」
私はそっと1つのきれいな石を渡す。
とまどいながらも男の子は受け取ってくれた。
これならなんとかなるかもしれない。




