二百五生目 信仰
そういえば、だ。
ドラーグって休んでいるのかな?
なんだかずっと働いているような……
「そういえばドラーグってちゃんと寝ている? 大丈夫?」
それを聞いてドラーグは一瞬不思議そうにして、ああ! っと納得して答えてくれた。
「へっちゃらですよ! 50周季節が巡っている間食っちゃ寝していたストックがあるからあと数年おきっぱなしでも平気です! まあすっきりさせるために数分は寝るのですけれどね」
「おお、そうなんだ。ドラゴンらしいや」
「ドラゴンですよ!?」
50年分の食っちゃ寝がそこまでの睡眠ストックになるとは……
ドラゴンおそるべし。
「ただ、疲れはしますからちゃんと休みながら働いています! 不謹慎かもしれませんが、今ものすごい活躍出来ているみたいですごくやる気があるんです! バリバリ働きますよー!」
「うんうん、それで寿命削らないようにね。ありがとう!」
それで寿命を削ったバカがいるらしい。
(お前だな)
(ダナー)
同じ身体なのだから同罪だよ同罪。
そのあとはドラーグはジャグナーを追いかけてテントから出て行った。
見張り台……うまくできると良いのだけれど。
「まったく、けが人なのに仕事が多いわね」
「ごめんね、早く治せるように努力するから」
「本当に分かっているのかしら……?」
ユウレンはヤレヤレと言った様子で顔をそらしまた本を読み出した。
多くの魔物たちがちょくちょく来るがある程度はユウレンが制限してくれる。
なのでひっきりなしに訪れる魔物たちに私が追われて治療が遅れる……ことにはならない。
ありがたい。
とは言ってももちろんこっちから会いたい魔物もいる。
今もその魔物たちがやってきていた。
「いやあ、お姉ちゃんがどうなるかと思ったよ……」
「まあ妹ならなんとか元気に生き残ってくれると思ってたさ!」
「ローズさんがなんとか復活してくれてうれしいです!」
「なんとかね」
ハックにインカそれにたぬ吉だ。
この3匹はユウレンが別事をしたり休んでいる間に変わりもやっていてくれる。
それにどこも大変で人手不足ならぬ魔物手不足な今決めた枠組みを越えて助け合っているらしい。
というわけで今はユウレンがおらず代わりに3匹が賑やかにしていた。
だいたいは現状の話をしたりやりたいことを話したり……
そして多くの被害を出した戦いを振り返ったり。
話を聞く限り意外にうまく回っているらしい。
食事もなんとかインカたちが狩ってきているし蛇や蜘蛛たちにも緊急要請をかけて回しているとか。
それとハックから変わったものが流行っているのを教えてもらえた。
「みんなね、僕がつけた窯の火を見てしみじみーってするんだよ」
「あれ……それって前の群れにいたときのような?」
「そうそれ」
明確な形は無いしそう勝手に思っているだけだが産まれ故郷の群れでは私が起こした火を過剰なほどに大事にする火の宗教とも呼べるものがあった。
もっとも原始的な信仰なのかもしれない。
ただの魔物にとって火はどうしても苦手な者も多い。
けれどそれを乗り越えると今度はやたら火を畏れ崇め眺めるようになる。
なんとも不思議なものだ。
まあそこから出来るハックの芸術品がさらに不思議極まっているから余計にそんな変わった流行りがあるのかもしれないが。
そしてもう1つ。
群れに受けた物質的な傷と共に心の傷がある。
それを埋めるのが火の宗教なのかもしれない。
実際にハックは特に火に対しては念入りな気がする。
よく他の魔物に火の凄さと怖さを教えているそうだ。
意外にそういう才能があるのかもしれない。
「そうそう、今日は妹に見せたいものがあるんだ。な!」
「ねー!」
「お、アレですか!」
「アレ?」
インカとハックが顔を見合わせて笑う。
たぬ吉も何か知っているようだ。
なんだなんだと思っていたらふたりとも私達から距離を取る。
「行くよ!」
「よーく見といてくれよ! やあ!」
「それ!」
気合の入ったかけ声と共に彼らの身体が光を帯びる。
あ、これは……!
まさかトランス!?
ホエハリのトランス条件はガウハリでもケンハリマでも同じく『誰かに慕われる』事とレベルが重要だった。
ふたりともリーダーポジションにつき特訓も重ね多くのやりたいことをクリアしていった。
つまりいつの間にかレベルも条件を満たしてトランスが出来るようになっていたというわけか!
肉体や精神の変化が終わって光がおさまる。
その場にいたふたりはすっかりとトランスをおえて種族が変わった姿だった。
インカはガウハリだ。
ガウハリはホエハリの鮮やかな青から渋い紺色へ。
針と表現する程度に細かった背中にあったものは金色の鎗のように見えた。
元々インカは筋肉質だったがさすがにひと回り以上大きく筋骨膨れれば違って見える。
首周りの飾り毛が火のように赤く出ていて顔にまるで父を思わせる爪痕のような力強い黄色模様。
力強く吠えればその威圧に自然に周りの魔物がひれ伏す姿が想像できる。
威風堂々とした佇まいだった。