六A生目 浮浪
領都で宿をとることにした帰り道。
「ん? これは……?」
「どうしました?」
「少しここで待っていてね」
私は普段から色々魔法とかスキルとかも含め探知している。
なかばクセみたいなものだが。 とはいえ実はかなりどうでもいい情報が多かったりして鬱陶しくなる。
能力があがるのはいいがなんでもかんでも情報がほしいわけでもなければ他人のプライベートをのぞきたい訳でもない。
なので私が普段受け取る情報はそこそこしぼってある。
自動的に処理するように組んだ脳内マップの情報にある1つの仕組みが……通称イベント通知。
おそらくここで何かが起きますよまたは起きてますよというもの。
困った相手がいたり揉めごとが起こっていたり。
悪意や害意のあるものは元々敏感に察知するがこれならさらに早く知れる。
悪意や害意がどういったものかの判断はそこらへん探知やら魔法で組んである分で判定する。
例えば泥棒を追いかける兵の害意や夫婦喧嘩の悪意なんかに引っかからないように処理してあるのだ。
これは私のスキルが高度になったからこそできる範囲でもある。
そうして考えている間に移動した先は……イベント通知だった。
脳内マップにあるアイコン。
ソレは緊急性と戦闘可能性を示していた。
私は屋根の上を走ってきて一瞬でつけたが陸路ならばかなり入り組んだ先だ。
領都としての位置も私達がいたところとは反対側だったし。
ギリギリ間に合ったのだろうか?
そこでは痩せぎすの男女たちがひとりのフードを被った子を取り囲んでいた。
子どもは路地の奥地に追い詰められている。
ここでは大通りの他人が介在する機会は無いし見回り兵なんてそもそも街中で見たことない。
私は気配を消しつつ様子をうかがう。
あのフード見るからに高そうだなあ……地味な色合いだけれど生地が断然良い。
「ほら、早く脱げって……金はなくとも、その服があるんだからよお」
「や、やめてくださいっ」
「おれたちゃこの服以外ないんだよ!」
「その布、傷つけるなよ。アレを売れば、何日メシが食えるかわからないほどだよ!」
「ひょー! 欲しいなあ! ほら、くれよ!!」
「近づかないでくださいっ……!」
男の子……かな。
ひととおりざっくり"観察"してみて1回後悔するはめになりつつその思考を片隅に追いやる。
そして男の子は抵抗することもまともにできずその場ですっ転んでしまった。
どうやら腰がひけて足がもつれたらしい。
3人の浮浪者は死にかけの風貌ながら目が異様にギラついた。
「あたしらの金を汚すなー!!」
「ハアァァー!!」
奇声を上げながら男の子へとびかかる。
フードをしっかりと握った。
よし。
「止まれ!」
私は上空からいきなり開放した自身から発せられる圧力と共に声を浴びせる。
それだけで3人の動きは完全に止まった。
浴びせる相手を絞ったのが功を奏したようだ。
屋根から飛び降りてくるりと回って着地。
ここの着地ミスするととても痛いので気をつけよう!
さてかれらはと。
「おっと」
その場でバタバタと崩れだした。
どうやら私の威圧を耐えきれなかったらしい。
泡をふいたり涙をながしたり各々しながら気絶していた。
頭から行くと彼らならうっかり死にかけないので手足を滑らせる。
その間フードの子は完全に固まっていた。
うまくそこらへんに寝かせてと。
「大丈夫でしたか?」
全然意識がこの世界に戻ってくる気配がない目をしている。
処理待ちというやつだ。
突然が重なりすぎたのだろう。
そうして時間がたってからやっとひとこと。
「からだ……柔軟ですね……?」
間違いなく今言うところじゃない点について話が飛んだ。
仕方ないのでこちらで話を進める。
「こちらで『強奪の現場』を確認 したので『緊急逮捕』を行いました。彼らは正式に、冒険者ギルドで預かります」
「え? あっ……冒険者の、方、ですか……?」
「そうです」
「ぇあっ! あ、あの、彼らを許してあげてください! そ、その、騒動になると、困るというか、兵隊さんに渡されると……!」
「ええまあ、そもそも警ら……ええと、兵隊さんなんてぜんぜんいませんし、やる気がない相手に渡せませんよ。冒険者ギルドの権限で対応しますから、大事にする気はありません」
フードをかぶって顔が半分隠れているのに露骨に安堵されて少し笑ってしまう。
そんなちょっとした笑顔すら彼をビクつかせるのに十分だったが。
「あっ、は、はぁ……」
「では、行きましょうか」
いまだ混乱している男の子の手をとる。
するとなんだかわからないといった様子ではあるが彼の時は動き出したようだ。
足は動く。
ノビている彼らは……まあいいか。
魔力を固めて浮かし念力のように浮かして運んだ。




