五A生目 試作
非常に落ち着いた雰囲気のカフェ。
逆に言えば寂れた場末感がある。
もはや隠れ家的といえばいいのか。
来る時も何回か危険そうな裏路地を通った。
一瞥もくれず歩く姿に慌てて追いついた時小声で「目を合わせると全員たかりに来る」と話してくれた。
なんとも末期的な世界になっているなあ……
さてこのいい感じに寂れた店で全員がおやつとティーをたのみ楽しんでいた。
いや……ミアはなにもかも初めてでもはやはしゃいでいたが。
「わあ! すごいこれ、おしゃれ、かわいい! え、砂糖ですよねこれ!? 入れて良いんですか? どんどん入れちゃいますよ? ええっ!?」
「……茶の代金に砂糖の金は含まれている。自由に飲むが良い」
「やったー!」
ミアの喜びっぷりに思わず笑顔になってしまう。
どうやらかなりお気にめしたらしい。
ちなみに角砂糖なわけもなく聞いたところによると蒼の大陸ではポピュラーに採取できる樹液を精製した液体らしい。
結果的にいえば粉砂糖とかわりないが色が赤いんだよね。
紅茶に入れると色が映える。
こういうちょっとした違いはやはり大陸またぎした者の醍醐味だ。
出てきたお菓子は洋菓子じみているが私の知っている何にも当てはまらない。
ホットケーキのようで冷めており。
パンケーキというには生地に色々混ぜられており。
パイというにはしっとりしていて。
そして甘くやさしい。
「初めて食べるなあ……」
「そうか、ここのケーキは絶品だからな。昔はこの領では、よく出ていたんだ」
「……そうなんですか」
なんとなく触れづらい部分な気がしてお茶を濁すかのように紅茶を口にした。
ミアは砂糖をどんどん入れているもののそんなことしなくても十分おいしい。
特に香り高いのに。
ひと息つくとシドニーの様子が少し緩くなった。
眉間のシワが薄れれば近寄りがたい空気も薄れるものだ。
本人には言わないが。
「私達は、今後もずっとこの味が食べられるように、そしてさらに広まるようにしていかねばならない。こんなところで、人と文化を途絶えさせるわけにはいかんのだ」
「今を生きるニンゲン達が苦しみたえるなんて、本当に良くないですからね。良くない。ここで転換期にしないと」
そんなことをふたりではなしあう。
ミアは紅茶入り砂糖を飲んでご満悦していた。
少したつと話の方向も変わる。
「あの素晴らしい技術は、世に発表しないのか?」
「えっ? あれって何か需要ありますか?」
「いくつかは。先ず世の暗殺者たちは歓喜するだろうな」
「ああ……暗器と安全ななにかを入れ替えるのかぁ。それの対策としては、光ったり、そもそもモノを大元のデータに紐づけして一般的に使えないよう権限つけたり、目立つように工夫したりとかかなあ」
「成る程、考えがあるのならばいい。メリットとしては冒険者たちだ」
「私達?」
「そもそも、冒険者とは重要な職なのに、なぜ市民の人々は恐れるのか。それは、荒くれの言動や、鍛えた者特有の強者としての気配もある」
シドニー私から一瞬目線を外す。
私からはそういった言動や威圧を感じないからだろう。
ある意味わかりやすいニンゲンだ。
「まあ、ある意味宿命みたいなところはありますよね」
「しかし、市民が恐れるのはもっとわかりやすいところだ。荒くれ者ならば酒飲みはたいていだし、鍛えたものは兵ならばだいたい感じる。1番の違いは、公権力ではないのに武器を持っているという点だろう。特に冒険者は大きく荒々しい武装が多い。市民は明確に傷つくであろう刃物に恐れ慄くからな。荒くれで放浪ものでなおかつ武装しているとなると、市民からすれば賊との違いが少ししか感じられないわけだ」
「そうまとめられると、そうなっちゃいますねえ……」
「そこで先程の発明だ。普段は無害な非殺傷武装にしておけば、市民の見る目は変わるだろう。実際、冒険者たちが休日出歩くときにはそこまで厳しくはされん」
「なるほど……そう考えると、冒険者向けに需要があるんですね。考えてみます」
「まずは作製からになるが、どれほどかかりそうだ?」
冒険者向けのはともかく今回のものならある程度脳内で組み上がっている。
あとは実際にやってみてエラーを洗い出す作業かな。
「やろうと思えばここで試作ができますよ。ただ、製品化は考えていない前提の代物ですが」
「……頼りになる返事だ」
驚いたらしくシドニーは軽く目を見開く。
それだけだがにおいはブワッと変化したので本当に表情筋が変わらないなあ。
実際ここで作ると迷惑がかかるかもしれないということで帰ってからプロトタイプを組み上げそこからああだこうだと意見を出し合った。
完成が楽しみだ。




