九百九十七生目 装備
この身体に足りないのは多分小回りの良い盾だ。
マルチバースのように重なり合った別世界の私がいるとして男ならばきっとゼロエネミーを盾としてぶん回しながらパリィしたあと上から殴るバトルスタイルだろう。
ただ私のゼロエネミーは完全に構える守りの盾……シールドバリアのようにしか使えない。
というか元々剣なのでそんなふうになれるだけでもだいぶ大きいんだけれど。
射出やエネルギーを身体に回す一部増強を使いやり方を覚えつつそう考察する。
ずいぶんとキレのいい拳さばきができるのをチェックする。
もっと身体の柔らかさがうしなわれるかと思ったが私の訓練によるたまものなのか言うほど違和感はなかった。
マアでもきっとかたまるのは早いだろうからそこらへん気を回さないと。
さてと。
とりあえずやれる範囲のことはやったから女性体に戻る。
うんやっぱりしっくり来るのはこっちだなぁ……
進化やトランスとはなんとなく違って違和感があるんだよね。
こっちの訓練も日々して気になる点は書き出していこう。
さてと獣拳士のレベルが9であとわずかだから上げきってしまおう。
10になりました。
MAXだ。
少し虫の死骸で出来たあの迷宮奥地を掘るついでに拳刃化させたゼロエネミーでぶん殴ってたらすぐだった。
[速度上昇 基礎能力の速度が上昇する。常時型]
[獣心 他の武技から繋げる終わりの拳。その拳は相手を仕留める牙。1撃のスキで連発叩き込まれる(専用)]
速度上昇は単純にありがたい。
前より俊敏になれた気がする。
獣心は獣拳士専用の武技で"蹴爪"から"重連牙貫"に繋げてから"獣心"となる。
試しに使ってみるとタックルして相手をひるませたあととんでもなく輝く拳を相手へとぶん殴る。
するとその1撃で何重にも重なった光が乱打される。
一瞬で何発入るんだか私でもカウントできなかった。
これの弱点は獣拳士専用かつこれを決めるのに長々と武技を繋ぐ必要があったこと。
相手が弱かったら先に倒しちゃうし強かったら絡め取られるし。
大型の相手にはちょうどいいかもしれない。
こうして冒険者としての日常に戻るともうひとりの日常に戻った相手を思い出す。
ユナだ。ユナはふたたび舞台にたった。
それは本当の拍手喝采を浴びる初めての機会として。
あのとき見た舞台は見事だった。
私達の別れは笑顔で。
いやまあ永遠の別れでもなんでもなく普通に文通出来るんですが。
私はアノニマルースに戻ってとある場所に入る。
そこは図書館。
アノニマルースが各地で集められた図書が収められた場所。
そこの建物内に併設された部屋。
どことなくおごそかな雰囲気漂う神殿じみたここにはたった1冊の本が保管されている。
ある意味禁書だ。
これこそが職業の本。
ここに入れる指定の者でなければ結界に弾かれる。
意外と強固だよ。
私は本を手にとって願う。
今度私に必要な職を。
きっとこの本は私を導くかのように新たな道を示してくれるのだから。
[アーチラリ 魔法で威力向上と広範囲壊滅を狙う最後衛職。要多くの魔法職能力。歩く砲撃をこの手に]
[発射!(専用)(常時) 魔法を放つ時に、魔力量によって範囲を拡大させられる]
よし新しい職をゲットできた。
外へ出て早速試してみる。
火魔法"フレイムボール"を唱えると脳裏にいつもと違う感覚が増す。
魔力をどれだけ追加で込めればどこまで広くできるかというもの。
効率〜がまあ悪い。
ただまあ自分でいじれそうかなこれは。
火の玉を放つといつもより大きくなり青白い炎が着弾と共に燃え広がる。
まるで違う魔法だ。
効率はあとでいじるとして今はその範囲である。
"ヒュージフレイム"クラスの範囲を1発の"フレイムボール"で焼けた。
逆に言えばもっともっと範囲の広い魔法ならばあたり一面全てに影響を与えられる。
そう考えて地魔法"クエイク"のことを思う。
……最悪1戦場全部巻き込む地震起こせるかもね。
それにしても確かに出力に悩む私にはぴったりな職だけれど同時に重いなあ。
使い道を今の間に考えつつ普段の生活に戻っていくのだった。
この世界には多数の超越した能力の持ち主がある。
ニンゲン界隈の話だ。
前朱の大地で一緒に砦を攻略したペラおじさんも実は超越した能力を持つ。
ただあの時おじさんが持つ武装はたった1つしか尖ったものはなかった。
これはどのニンゲンでもそうなのだが武具フルセットで初めてその超越らしき力を発揮できる。
……ゆえに多数の国で制限がかかっているというのも調べでわかった。
フル装備ならば神の……
越殻者としての振る舞いが見られるとの話だ。




