二百四生目 見張
「よう! 元気にやっているか!」
「あ、ジャグナー。結構元気だよ!」
「自力であまり起き上がれない元気、ねえ……」
ジャグナーが私が治療を受けているテントにやってきた。
今回の避難や防衛の要だった。
彼がいなければどれほどの被害が出ていたか。
ユウレンがジト目で突っ込んできたがスルーする。
「ニンゲン……ダカシは見つかった?」
「いや……ココ数日探し続けさせているがさっぱりだ。もう近くにはいないかもしれないな」
「不完全だったとは言え話に聞く城塞破壊魔法を使ったのなら、身体は結界に守られていてもしばらくは全力を出せないほどにはタダでは済まないと思うのだけれどね」
「不完全? 城塞破壊魔法?」
私の問いにジャグナーが返しユウレンが語ったがジャグナーが聞き返す。
そうそう、そこらへんの詳しい話を聞いておきたかったんだ。
「ものすごく有名な、戦争用の魔法よ。本来は何人もの魔法使いが前準備して相手の城壁へぶつけるもの。個人で使うことも出来るでしょうけれど、周囲に漂う魔力をうまく使っても普通ならば、しばらくは寝転がって過ごすしかないほどの反動をもらうはずよ。ただまあ、ちゃんと使うには魔法の力が足りなかったのか、威力不十分で壊し燃やしつくすはずが吹き飛ぶ程度で済んでいる部分も多かったわね」
「……今ちゃんと外を見れないけれど、結構広い範囲が吹き飛んでるの?」
「まあ、皆余計な心配をかけるつもりはなくて黙っていたようだが……中心近くから半分ほど吹き飛んでおる。地形も変わってしまっているな」
うげ、そこまでの威力があったのか!
良く生きていたな私。
なんとか1番危険なところからは逃げれていたのかな。
はあ……それにしてもみんなで必死につくりあげたテントたちが……
一応死亡者はゼロと聞いているけれど、おそらく地面に向けて魔法を放ったのだろうけれどそれがたまたま良い結果を導いたのかな。
ある程度私の逃げた奥の方へ撃ち込んでいたら私ごと避難したみんなも……ブルル。
不完全だったという話もあったしおそらくコントロールが効かないし放ったらそれっきりもう戦えないような自爆技に近いものだったのだろう。
彼の性質はどちらかといえば剣士に近かった。
剣の腕は卓越していたが強大な魔法は扱いきれないから逃げるめくらましのためにも魔法が明後日のほうに飛んだり距離減衰でうまく発動しなかったりというリスクを避けるために地面に放ったと。
結界で自身の命は守っていればリターンは十分ある。
想像ではあるが筋は通った想像だ。
「それで、今日来た話のメインは、見張りだ」
「うん、私もそのことを考えてはいたんだ」
さすがにもう無警戒であんなのの接近を許す事は繰り返してはならない。
なので見張りがいるのだが単なる見張りでは数もたくさんいるし対応しきれないだろう。
だから……
「前から要請があった鳥系魔物の高い場所での巣づくりを、そのまま見張り台にしようと思う」
「ほう? というと?」
「なるべく高い場所を作ったり地形を利用して高くした場所に、周囲を見張れるようにした小屋を作って、飛べて見張り業務をしてくれる魔物を優先してそこに住めるようにしたいんだ」
「それは良いな! もちろん連絡手段や具体的な見張り内容を決めなくちゃならないが、早速やってみるか!」
「よろしく、そこらへんはドラーグと……」
とりあえず外部からの侵入には監視の目。
その話をしてドラーグと協力して話をつけようとしたら噂をすればなんとやら。
ドラーグが顔を覗かせてきた。
「こんにちはー……って今呼びました? あ、ジャグナーさんもこんにちは」
「おう、ちょうど名前が上がったところだったわ!」
「実はかくかくしかじかで……」
私はテントの中で寝かされているせいでいまいち日付感覚が掴みにくいがドラーグはこうしてちょくちょく顔を見せにくる。
もっぱら話は戦後処理について。
今回もその話だろうがドラーグに今さっきジャグナーと話した内容を伝えた。
「ああ! たしかに高いところで眠れる場所は話が通っていましたね! 木材を準備して、今は設置場所を考えていた段階でしたが……
それを応用して見張り小屋にしますね!」
「おし、じゃあさっそくやるか!」
「僕はいつもの報告だけ済ませますね」
ジャグナーが先に出て行きドラーグは私に簡単に報告を済ませた。
内容はあまり芳しくない。
心に傷を負ったものもいるし寝泊まりしていたテントを吹き飛ばされたものは多い。
復旧にはまだまだ時間がかかるだろうということがハッキリさせられていた。
それに私がいないことで外から道具を運んでこれない。
これがかなりの枷になっている。
そう、私という個人の『便利』がなくなったことで致命的にこの群れが回らなくなっている。
ここらへんは……本当はもっと後に正常化させるつもりだったのだがそうも言ってられないらしい。
ドラーグとあれこれ話して対策をいくつか決定した。
まったく、私が復帰できるのはいつなのだろう……
重い身体はそれがまだ先だとしか教えてくれなくて、とても困るなぁ。